羊歯の檻 09 「ぁの…遊糸…」 「こっから、帰れる?」 「えっ…? ぇ、と…」 「マンション出て右に真っ直ぐ行ったら、駅があるから。駅まで行けば、判るよな?」 「う、ぅん…」 目を白黒させる霙を、追い立てるようにして玄関まで連れて行った。無理矢理に微笑み、ドアを開けて背中を押す。 きっと今日は、これだけでは済まない。 今は、ゆっくり説明をして、謝る時間はない。 「明日、思い切り、殴って。今日は…まっすぐ、帰ってくれるか…?」 「…わかった…」 「ありがとう。…気をつけて」 とにかく橘から霙を護りたい一心で、素早く扉を閉める。 閉まり切る寸前、霙が言った。 「遊糸も…っ」 「っ、」 遊糸は静かに、鍵をかけた。 [*前] | [次#] 『カゲロウ』目次へ / 品書へ |