羊歯の檻

04



 こんなことはおかしいと。
 こんな奴に従う必要はないと。

 頭では判っているのに、友人を引き合いに出されると、遊糸にはどうしようもなかった。失いたく、なかった。
 拳を握り締めて、俯く。全身が、小刻みに震える。屈辱と、恐怖が胸に募る。

「…っも、もう…逃げない、から…俺の友達には、何も、しないでくれ…ッ」
「くれ?」
「ッ…く、下さい…っ」
「いい子だね」

 橘は微笑むと、遊糸の唇を奪った。
 「んんぅ…っ」眉を寄せて、遊糸は懸命に嫌悪感に耐える。拒絶も『逃げ』のひとつだ。ならばもう、遊糸には許されない。

 生温かい舌が遊糸のそれに絡まり、口内をくすぐり、唾液を吸い上げられたかと思うと、たっぷりと送り込まれる。気持ち悪くてただ為すがままに任せていると、ぐいと顎を上げられて、「飲め」と言われているのだと気付いた。

「んっ…ん、む…」

 恐る恐る、喉へ送る。こくん。脚がガクガクして、立っていられないほど、頭の中が真っ白になった。

 相変わらずの長いキスを終えると、ようやく橘は離れ、
「じゃあお友達を解放してあげなさい」
と、言った。

 その台詞で霙が背後にいたことを思い出し、遊糸は青褪める。こんな、姿を。

 だが振り向いた先の霙は、ぼんやりと目が虚ろなままで、逆に不安になる。遊糸は急いで駆け寄り、布紐にかかった。

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