羊歯の檻

03



「っ…!!」
「随分早かったね。もしかして本当に友達だったかな?」
「ッてめぇ!!」

 弾かれるように立ち上がって、橘に掴みかかる。だが橘の不健康そうな顔は動じない。気持ち悪いほどの穏やかな笑顔で、胸倉を掴む遊糸の手に、手さえ添えてきた。
 「ッ触んなよ!」遊糸が思わず手を払おうとすると、橘はしっかりと手を掴んだ。

 眼が、ギラリと光る。


「君が悪いんだよ?」


「――ッ!!」

 途端に、遊糸の中が申し訳ない気持ちで満たされる。泣きそうに歪んだ顔を満足気に見て、橘は遊糸の頭を撫でた。

 それは遊糸が自覚しているが故に、今、もっとも言われたくない台詞だった。
 そのことを充分に理解して、橘は更に言葉を重ねる。

「君が逃げたりしなければ、霙くんはこんな目に遭わなくて良かったんだよ。少しくらいの外泊なら、私も許すくらいの気持ちはあったけどね。あんな家出のようなことをしてはいけないね」
「…ぅ、う…」
「君の所為だよ、遊糸。判っただろう? 逃げている間だって、色んなひとに迷惑を掛けたはずだ」
「ぅ…っ!」

 唇を噛み締める遊糸を、ゆっくりと橘が抱き寄せる。耳に唇を寄せて、囁く。

「遊糸。お友達にこれ以上何もして欲しくないなら、君がすることは、判るだろう?」

 君が苦手なことだね。言って、そのままねっとりと耳の中に舌を入れられる。服の上から胸を撫でられ、橘の脚が腿の間に割り込む。
 ぶるりと躯が震えた。

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