羊歯の檻

02


 鍵は開いていた。
 靴を脱ぐのももどかしくリビングに駆け込むと、そこにはメールの画像そのままの状態で、霙が放置されていた。

 そのあまりにもぐったりした様子に、まさか死んでいるのかと一瞬思ったが、呼吸はしているようだった。慌てて近寄りはしたものの、なんと声を掛けたらいいのか判らない。

 声を掛ける資格など、あるのか。そう思う。

「っ…霙…ッ」

 それでも放置するわけにはいかない。なるべく股間から目を逸らしつつ、霙の肩に触れる。

 ビクンと、大仰なほどに霙の肩が震えて、それから薄く目が開いた。

「ゆー…し…? なんで…?」
「ッ、」

 お前にこんな酷いことをしたのは、自分の父親だからだ。父親は自分の代わりに、お前にこんなことをした。何故ならば、自分が父親から逃げたからだ。

「…ッ! ごめん…ごめん霙…ッ!」

 謝罪の言葉しか出ない。遊糸は唇を噛み締めて霙にジャケットを掛けて、それから霙の手首と足首を繋ぐ硬く結ばれた布紐を外しにかかった。

 涙が浮いて、視界がぼやけた。こんなことになるなんて。そんな思いだけが募る。
 早く、早く、早く。

「ッくそ…!」

 焦れば焦るほど、結び目はほどけてくれない。

 がちゃりと、背後で音がした。
 さ、と全身が冷たくなる。びくりと霙の脚が動いて、指先から結び目が逃げてしまった。

「おかえり、遊糸」


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