オルターナティヴ

04




――殺される…!!


 目の前にいる男は明らかに異常だ。さっきまでとは眼の光が違う。

――死にたくない…っ!

 折角毎日が楽しいと思えるようになったばかりだというのに。じわりと恐怖に涙が浮く。
 霙の躯を跨ぐようにして男がしゃがみ込み、霙の頬に触れる。

「最近の子は泣き虫なんだな。まだ何もしていないのに」
――されてからじゃ手遅れだろッ!!

 口の中の布を噛み締め、反駁したい気持ちを霙は懸命に抑える。わざわざ不興を買って殺されることはない。そもそも口を塞がれているのだから反論しようもないのだが。

 ただただ恐怖に身を竦めていると、霙の制服のポケットから男が生徒手帳を抜き取る。

「ふむ…小高、みぞれ、くんかな?」

 名前を確認されることには慣れている。そもそも名前に使うような字ではないし、男に付けるような名でもない。
 こくりと肯いた霙に、男は嬉しそうに口の端をつり上げた。

「名前まで好みだな。こういう綺麗な名前が私は好きでね。息子にもこんな名前をつけたんだ」

 息子。目の前の、この異常者に、息子。
 それだけで、なんだか絶望的な気持ちになる。その息子は、父親がひとを殺めようとしていることなど知らないのだろう。

 男は生徒手帳にしばらく目を通していたが、ニヤと笑うと「なるほどね」とひとりごち、霙のポケットに返した。

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