オルターナティヴ

03



「ありがとう」

 歩き出した霙を小走りで追って、斜め後ろについてきた男性が言った。悪い気はしなかった。

 霙としてもあまり来たことがないので意識していなかったが、細い路地は寺だか神社だか判らないものに挟まれて出来ているようだった。しんとして、ひと気がない。病院も開いているのか怪しいものだ。

――びょう、いん?

 学校も終った17時過ぎ。街の小さな診療所。…開いて、いるのか? 思わず霙は足を止めた。

「おじさ――、ッ?!」

 確認してあるのかと訊ねようとして、突然背後から口を布で塞がれ、羽交い絞めにされた。引きずるようにして体勢を崩され、座り込んだ霙の腕が、カシャンと言う音と共に後ろで拘束された。

「んぐぅ?!」

 あまりに唐突で、あまりに非日常で、霙の思考が追いつかない。ガチャガチャ音を立てて腕を動かすが、手首に痛みが走るばかりでどうしようもない。

「うぅうう! うぅううッ!」
「最近はSMグッズだとかで、手錠も簡単に手に入るんだよ。本物と比べて精度がどうなのかは知らないが、君くらい細い子を捕らえる程度なら、手軽で便利だ」
「うぅうううッ、うぅーっ!」

 なんとか逃げようと文字通り足掻き、僅かに後退するが、逃げるどころか背後は薄暗い路地で、否応なしに全てが計算された行為だったことを霙は認識させられた。

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