逃亡(劇)

07



「遠慮すんなよ」
「お、おぅ…」

 そうは言っても、理由も言わずに、期限も決めずに、ひとの家に住み込むというのはやはり気が引ける。

 金なりなんなり渡すものがあれば少しは気持ちも楽だったかもしれないが、今後のことを考えると金は貯めておくに限る。少しでも早くここを出て行くためにも、それは必要だった。
 そのことについて謝罪すると、海は制服を着替えながら、

「なら出世払いでいいよ」
と、こともなげに言ってのけた。

「俺も最近の遊糸、やっぱ顔色悪かったりしたから心配してたんだよ。見えないとこで悩まれるより、近くで息抜きしてもらった方が俺としても楽」

 そんなことを、あっさりと言われて、申し訳ない気持ちと共に、どうしようもない嬉しさが込み上げて来た。

 ああ。
 心配させて、ごめん。
 心配してくれて、ありがとう。

 もちろん海が気を遣ってくれているのだということは判っていたが、遊糸は少し気持ちが落ち着いた気がした。

 部屋に足を踏み入れる。六花の部屋と違って、木材を使った家具が多くて、安心出来る造りだった。

「ベッドはじゃんけんな。その辺は譲んねーぞ」

 けらりと笑う海に、遊糸はふるりとかぶりを振った。

「いい。俺、床で」


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