逃亡(劇)

05



「白いベッド、恐い? 柵がないと落ちそうで恐いのかな。誰が使ったか判んないから、気持ち悪いのかな。ここね、結構寝心地いいよ」

 むくりと起き上がって、今まで自分が寝ていたソファをぽすぽすと叩いて示す。
 にこりと邪気なく向けられた笑顔に、なんだか遊糸は気が抜けた。変な奴だと思ったに違いない。だが、それでも追究することなく気遣ってくれる優しさが、嬉しかった。

「で、でも…、いいのか?」
「あは。おれのソファじゃないし。おれサボりだし。たちばな、具合悪いみたいだし。ここでゆっくり休めるなら、ベストでしょ」

 霙が、ゆらりと立ち上がってソファを掌で指し示す。遊糸はベッドを一瞥してから、霙の元へ向かった。
 ありがとうと礼を言うと、霙はやはり眠そうな眼のまま、遊糸の肩をぽんと叩いた。


「無理は禁物だよ、たちばな」


「――!」

 ごく当たり前の言葉なのに、なんだか見透かされたような気がして、遊糸は思わず霙の目を見た。その遊糸の反応に、当然今度は霙が驚いたような顔をする。それから困ったように笑って「お節介だったかな」と言った。
 怒ったわけじゃない。そう告げたいのに、なんと表現したらいいか判らない。

 霙がそのまま立ち去ろうとするから、慌てて遊糸は声を掛けた。

「小高っ」
「ぅん?」

 日差しを受けて髪がオレンジに透ける。目の色素も薄いらしく、光の加減で琥珀色に見えた。素直に綺麗だと思う。

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