転がる珠

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 心臓がドクドク鳴っているのは、居ないと安心していたのを裏切られたからだろうか。
 既にふたりが転がり込んで来て、1週間以上経とうとしている。存在にくらい、慣れてもいいだろうにと、自分でも思う。

 でも。
「っ…ヤなんだ…」
 その存在が。

 しばらく肩を抱いて気分を鎮めたあと、風呂へ入るため着替えを持って浴室へ向かった。少し覗いてみたが、リビングにはもう橘の姿はなく、なんとなく遊糸は安堵の息を吐いた。

 シャワーを出して、そのまま頭から浴びる。元々湯船に浸かることがあまりない生活をしていたのに加えて、思春期の乙女かとは思うのだが、橘達が使った湯に、浸かりたくはない。
 ぼんやり流れていく水を眺めていたら、少しずつ胸の気持ち悪さも取れて来た。

 ここまで身体的に拒絶反応を示す相手に、どう接すれば良いというのだろう。自分でも自分が判らない。

 家を出るか。

 やはり14年を埋めることなど出来ないのだ。苦い、つらい、苦しい、重い。

「…ヤなんだ…」

 シャワーに打たれながら、もう一度声に出して呟く。
 そのとき、カタンと音がした。頭を上げて見ると、風呂場の擦りガラスの向こうに、ごそごそと動く姿がある。

 ドクンと、心臓が脈打った。


「…橘、さん…?」



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