転がる珠

06



「まぁ…ちゃんと対面したのは認めるよ。どうしてもしんどくなったら、いつでも俺んち来て良いからな」

 言うと、遊糸は花咲くようにして笑った。

「ありがとう海! お前さいこー!」
「…すぐ来る気か」

 嫌な予感がした。いつでも来て良いという言葉に嘘はないが、それでもやはり家には戻ってなんとか少しでも関係を修復するべきではないかと海は思う。
 けれど遊糸は、困ったように笑いながらも、ふるりと首を左右に振った。

「ちょっとずつは、話も聞かないとな。海にもンな迷惑ばっか掛けてらんねぇし。あいつ、作家なんだってよ。だから家に居て平気なんだって。とりあえず帰りに鍵作って帰る」
「…へぇ」

 前言撤回。

 思ったよりもきちんと対応している遊糸を、少し見直した。遊糸は「でもさ」突然真顔になって、海の顔を覗き込んだ。

「父親って、俺らくらいの歳って、無視していいんだよな? 話し掛けて来るからつい応じちまうんだけどさ」
「…」


(……なるほど)


 遊糸は3歳の頃からずっと父親がいなかったのだ。そうした存在への対応の仕方がそもそも判らないのだろう。
 メディアで得た知識が、彼にとっての『父親』なのだ。

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