転がる珠

05



***

「…それで?」

 昨夜と同じ台詞を、海は返す。
 遊糸は小さく笑って、「それでも何もねぇよ」と昨夜と同じ台詞を返してきた。

「家になんかがいるだけで、俺は今までの生活変えないことにした」
「存在否定っすか」
「1番楽だろ?」
「出来るならいいけどな。今日はどうやって出て来たんだよ」
「さぁ、知らね。普通に来た」
「鍵は」
「俺だけが持ってる」
「…お前ね…」

 いくら苦手な人間と住むことになったからといって、相手の都合を全く考慮しない遊糸に思わず溜め息が出た。遊糸の奔放さは知ってはいたが、まさかここまで重症だとは。

 海の両親は仲が良いし、家族仲も良い。それ故に遊糸の気持ちは計り知れないものがあるが。

(に、したって、なぁ)

 馴染みのない家に鍵もなく残されたら、仕事にも行けないではないか。転居の手続きなど厄介なこともあるのではないか。

 そうは思うが、海は遊糸の友人であって、遊糸の父の友人ではない。同情こそすれ、支えるなら不安定な遊糸を当然選ぶ。

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