転がる珠 05 「…それで?」 昨夜と同じ台詞を、海は返す。 遊糸は小さく笑って、「それでも何もねぇよ」と昨夜と同じ台詞を返してきた。 「家になんかがいるだけで、俺は今までの生活変えないことにした」 「存在否定っすか」 「1番楽だろ?」 「出来るならいいけどな。今日はどうやって出て来たんだよ」 「さぁ、知らね。普通に来た」 「鍵は」 「俺だけが持ってる」 「…お前ね…」 いくら苦手な人間と住むことになったからといって、相手の都合を全く考慮しない遊糸に思わず溜め息が出た。遊糸の奔放さは知ってはいたが、まさかここまで重症だとは。 海の両親は仲が良いし、家族仲も良い。それ故に遊糸の気持ちは計り知れないものがあるが。 (に、したって、なぁ) 馴染みのない家に鍵もなく残されたら、仕事にも行けないではないか。転居の手続きなど厄介なこともあるのではないか。 そうは思うが、海は遊糸の友人であって、遊糸の父の友人ではない。同情こそすれ、支えるなら不安定な遊糸を当然選ぶ。 [*前] | [次#] 『カゲロウ』目次へ / 品書へ |