転がる珠 04 「遊糸が怒るのも当然だ、だが、…判ってくれないか。六花も、母は、居ないんだ」 押し殺したような橘の声に、思わず遊糸は六花を見る。六花はただ憔悴したような顔をしているだけで、遊糸を見ようとしない。 「二人とも、私の大切な息子だ。今まで遊糸には淋しい思いをさせただろうが、中学生の六花を放り出すことなんて、出来ない」 訥々と語る橘が、鬱陶しく感じ始める。視線を上げない六花に同情するどころか、もはや諦観に似た無反応しか起こらない。 オトナのジジョウはもうたくさんだ。 女は、増えないらしい。だったら、もういい。 「…勝手にして下さい。部屋とか家具の不都合もそっちがなんとかして下さい。俺のことは、学費さえ払ってもらったらいいです。あと1年と少しで高校を出る、それまでの――生活だと思うことにします」 働き始めたら学費も返しますから。淡々と告げて、遊糸は立ち上がった。橘の視線が追って来るのを、無視する。振り向きもせずに、ただ一方的に告げる。 「あと、俺の生活に、口出ししないで下さい。俺は、俺で生きてますから」 それだけ言うと自室へ戻り、着替えを手にして浴室へ向かった。 金銭を盗むつもりなら遊糸がいなかった間にいくらでも出来ることだ。不用意に家を晒してしまったことで、自暴自棄に似た心持になれた。 シャワーを浴びて自室へ戻る途中で、浴室の使用許可を乞われた。 勝手にして下さいと応えた。 [*前] | [次#] 『カゲロウ』目次へ / 品書へ |