転がる珠

03



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 マンションに戻ると、ドアの前にふたりの姿があった。エレベーターを降りて、遊糸はぎょっと身を引く。

 まさか、ずっと?

 遊糸を見つけて、橘が安堵したように微笑んだ。六花とか言う奴はドアの横に膝を抱えて座り込んでいたが、遊糸に気付くと慌てたように立ち上がる。

「…良かった。こんな遅くまで、帰って来なかったらどうしようかと」

 穏やかな物言いに、遊糸は更に気まずくなる。パニックを引き起こして飛び出して、そのまま相手は家の外でどうも待っていた場合、どのような顔をしてどのようなことを言ったら良いのか。
 全面的にあっち――橘が悪い、という根強い思いはあるから、謝るのも癪だった。だが、かと言って謝罪の言葉以外に何と言って切り出せば良いのか皆目見当もつかない。

 結局たっぷり悩むほども時間も与えられず橘達の前を通り過ぎ、開いたままのドアをくぐって、
「…どうぞ」
とだけ、呟いた。

 今度は素直に橘と六花が続く。

 リビングについて壁の時計を見上げると、時刻は0時になろうとしていた。橘達をソファに座らせ、遊糸自身はダイニングの椅子に座った。顔を背けてはいるが、ふたりの様子は判る。

「…混乱させて、すまなかった」

 すぐに、橘が深々と頭を下げる。遊糸は目の下にしわを刻んで、更に顔を背けた。

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