転がる珠

02



「話し合って女も来るから、なんて言われたら俺はどうしたらいいんだよ!」
「その、弟は、女と別居するけど、いるんだってことだけ知っといて欲しかった、とか」
「ねーよ…」
「…だろうな…」

 無関係の海が必死で相談に応じてくれているのをひしひしと感じる。
 このまま海に愚痴を零したところで、事態は何も動きはしないことだって、遊糸にも判る。

「…戻るわ、俺」

 ぼそりと呟くと、海が弾かれるように顔を上げる。その顔に、遊糸は力なく微笑んだ。さらりと夜風に金茶の髪が揺れる。

「悪ぃな、急にンなことで呼び出して。頭冷えた。さんきゅ」
「…平気か?」
「ん…。ま、明日また愚痴聞いてやってくれよ」
「待ってる」

 精一杯海がそう言ってくれているのが判って、遊糸は嬉しくなった。

 血なんか繋がっていなくても、これだけ頼れるひとがいるということが、誇らしかった。

 少し歩き出してから、振り返る。


「おやすみッ」


 拳を突き上げてそう言ったら、海も同じ仕種で返してくれた。

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