転がる珠

01



「…それで?」

 食い入るように海が身を乗り出して来る。遊糸は舌打ちして視線を逸らした。

「それでも何もねぇよ。ざっけんなっつって家飛び出して来ただけだ」

 そして少し気分が落ち着いてから、パンツのポケットに突っ込んだままだったケータイで海を呼び出し、街灯のランプ、ガードレールのソファで語り合っているわけだ。
 海は疲れたような息を吐く。

「…ごめん、もう俺何言ったらいいか判んねーわ」
「俺だって判んねーよ。なんだよアレ。どうしたらいいんだよ。わっけ判んねぇ」

 海のもっともな台詞に、遊糸は文字通り頭を抱える。

 ほぼ見知らぬ他人をふたり家に残して飛び出して来てしまったことは後悔しているが、その他人ふたりとこれから暮らしていくかもしれないという状況が理解出来ない。したくない。

 弟ってなんなんだよ。

 母さんと俺を放り出して別の女と作ったガキ連れて、今更俺とそいつと一緒に養おうってのか。数日もしたら女の方も来る予定なんじゃないのか。

 だとしたら。
 『他人』になるのは、自分だ。

「…どうしたらいい、海…。俺、居場所がなくなる」
「そう、決まったわけじゃ、ないだろ…。帰って、もっとちゃんと、話し合ってみたら」


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