プロロォグ

05



+++

「来ねーし」

 ソファにうつ伏せになり、雑誌を読み漁りながらも律儀に待っていた遊糸は、不機嫌に呟いて時計を見上げた。
 時刻は22時30分を超えた時間。
 親しくない人間への訪問時間は過ぎていると考えて良いだろう。

 入浴中に来訪されてはいけないと、風呂も入らずに待っているのだが。

 早く来て欲しいと短絡的に思う反面、このままもうずっと来ないで欲しいとも思う。


 また消えればいい。どこかから金さえ払ってくれるなら。生きていく覚悟はしていたし、実際金さえあればこの家で1年間、ひとりで生きて来た。
 期待などしていない。出来ない。
 14年を埋めることなど、不可能だ。


 遊糸はぼすんとクッションに顔を沈めた。

 ぴんぽーん。

「――チッ」

 途端に鳴った間抜けなインターホンの音に、思わず舌打ち。遊糸はしぶしぶ起き上がり、廊下を進んだ。
 鍵を開けて、ドアを開く。

「…こんばんは」

 見たくない、顔がある。ひげのない顔。不健康そうな体つき。
 似ているところなどないと思う。

「…どうぞ。狭いですけど」

 あんたが来ることでより手狭になると、皮肉を込めて言ったつもりだった。男――橘 大輔が手にしている荷物は思っていたよりも少ないが、それでも共に暮らすとなれば増えざるを得ないだろう。

 形式張って口上を述べ、身を引くと、橘はドアノブを掴み、そのまま入って来ようとしない。

- 10 -
[*前] | [次#]

『カゲロウ』目次へ / 品書へ


 
 
×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -