路地裏を駆け抜ける。頭の片隅で、今頃研究所は大騒ぎかもしれないと思ったが、使えもしないレベル2が一人いなくなったことぐらい、別に騒ぐ引き金になりはしないかと思い直した。
(まぁ、そう思わせただけだけど。)
機械の数値だけでしか判断出来ない無能な科学者たち。数字をいじることなんて訳もないのに。
と その時だった。
「……けてっ、助けてっ!!」
「うるせぇ!静かにしろ!」
暑いのに真っ黒なコートにマスクにサングラス。いかにも疑ってくださいと言わんばかりの男と、空色のワンピースに大きめのシャツを羽織った10歳くらいの女の子。それだけわかればもう十分。
「あらら。名無しさんさんはどうやらとてもいいタイミングで登場しちゃったんじゃないかしら?」
にっこり笑顔でそう言って、問答無用で左手を掲げる。
「そうだなぁ。ロリコン変態野郎には―――」
音もなく、左手の前の空間が歪み、そこに拳銃がひとつ現れた。
「コレで退散してもらおうかな?」
パン、と乾いた音が路地裏にこだました。
*
「ありがとうってミサカはミサカはお礼を述べてみる。名前は名無しさんって言うんだね。名無しさんはどうしてここにいたのってミサカはミサカは聞いてみたり」
「無能な中年たちから逃げて来たんだよー」
「ふーん…?っていうかその左手、どうなってるのってミサカはミサカは興味津々!!」
「あぁ、コレ?」
名無しさんは左手の中の拳銃をカチャカチャといじりながら話す。
「再生と消失。私のチカラなんだ。一度右手で消したものは、いつでも左手で生み出すことができるんだよ」
「それってすっごい便利だねってミサカはミサカは目をキラキラさせてみたり!」
「でしょ?生き物は無理みたいだけど。生きたウサギとか。ウサギの肉は出来たんだけど……はい、あげる」
名無しさんが拳銃を右手に持ち変えると、拳銃が出てきたときのように音もなく拳銃は消えた。そうして次に左手から再生させたのは、二段重ねのアイスクリームだった。
「わーいありがとうってミサカはミサカはかぶりついてみる!!」
嬉しそうで何より、と名無しさんが思っていると、足音が聞こえた。ゆっくりゆっくりそれは近付いてくる。遠くの角の向こう側から、そりゃあもう真っ白な少年があらわれた。
「オイオマエ。ソイツから離れろ」
「……なに、またロリコンですか?」
と名無しさんは大袈裟に溜め息をつき、
「…あぁ、どこにでも変態はいるものなんですね」
その言葉をかわぎりに、二人は激突した。