第八話:あたしが傷付いたら、





「あーぁ、アクセラは実験かー」


暇ヒマひまぁー、とまた名無しさんは一人ベッドの上でパタパタと手足を動かす。朝起きてからしたことといえば入浴だけなのだが、再び眠くなり、名無しさんはうとうととし始めていた。いきなりガチャンと派手な音がして、名無しさんは慌てて音の方へ振り向いた。それは扉の方だった。どうやって開けたのかはわからないが、そこには数人の少年がいた。同じ研究所で飼われている能力者たちだ。彼らはレベル5ではないものの、限りなく5に近い能力をもつレベル4だ。身寄りがないのを良いことに、ここで飼われているのだ。


「ちょっとちょっと、何か用ですか」

「お前とレベル5、デキてんだってな」


ギャハハ、と馬鹿にしたような笑い声。レベル5というのはもちろん一方通行のことだろう。


「だったらなにさ」

「バケモノ同士がいちゃついて、一体どんなバケモノを産むつもりだよ」

「……!で、そのバケモノに何の用ですか」

「あの白い奴クソムカつくんだよ…!ちょっと能力が高いからって、蛆虫を見るような目で見やがって……!」

「あの野郎に思い知らせてやる…!」


彼らの話を聞くと、どうやら一方通行に馬鹿にされた報復として、一方通行の女と思われる名無しさんをやってしまおう、ということらしい。レベル5の素質有りとしてレベル5用の部屋に入れられてはいるものの、実験の成果だけ聞けば名無しさんは精々レベル2くらいの能力者である。だから彼らは名無しさんをズタボロに出来るだろうとふんでここへ来たのだ。


「(まさか一方通行絡みでこいつらにやられる日がこようとは…)」


名無しさんははぁ、と呆れたようにため息をついた。

「ちょっと、本気なの?散々化け物とかいっておいて、勝てるなんて思っちゃうんだ」

「はは、だってお前、結局レベル2止まりなんだろ?研究所の奴らも淡い期待なんかしてねぇで、さっさと諦めちまえばいいのによ。てめぇら、やるぞ」


ち、と名無しさんは軽く舌打ちをしつつ、彼らと距離をとろうとした。力を使えば簡単に倒せるだろうが、せっかく今の今まで研究者たちの前で演技をしてきたのに、こんなしょうのないことで、今までの苦労が水の泡ににるのはごめんだった。しかし、力を使わないようにと考えたせいか、それとも小物だと彼らをなめていたせいだろうか、気付けば床の上に仰向けにさせられ、上から押さえ付けられていた。


「…っ!」

「散々威勢のいいこと言っといて、あっけないな」

「…こんなことしたぐらいで、あんた達の言う化け物とやらが傷付くとでも本気で思ってるわけ?」


バシ、という音とともに、頬がジンジンと熱くなった。


「乙女の顔に平手打ちなんて、最低じゃない?」

「は、こんな状態でもそんなこと言うたぁさすがだな。まぁ確かにお前の言うとおり、あのばけもんは傷付かないかもしれねぇ。でももし傷付いたとしたら?怪物のくせに、人並みに傷付いてあげくのはてに泣いちゃったりしたら?…たまんねぇだろ、その顔が見れたら」

「(アクセラは、一方通行は…)」

そう言って彼らは笑い出す。もう名無しさんに抵抗する気力はなくて、なすがままにされていく。大人数が相手では、こうなってしまった以上、どうにもできないからか。心のどこかで試したいなどと思ってしまったからか。


「(あたしが傷付いたら、傷付けたものに怒ってくれる…?)」




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