彼の強さは、圧倒的だった。レベル5、なんてものではなかった。中学生でありながら、世界すら手に入る…それが一方通行。学園都市第一位。私はただ、興味を持った。この研究所には、レベル5なんて私と彼しかいなかったから。臆すことなく力を使う彼に、惹かれていったのも事実だ。
「あ?レベル5の部屋だっつゥのになンだこれは。独房かっつの」
「しょうがないよ。ここは私たちを逃がさないための檻なんだから」
「オイオイベッドも1つかよ、どォすンだよ。二人仲良く寝ろってか」
「そこはもちろんレディーに譲るべき…いた!痛いよなんでチョップするわけ!?」
「どこにレディーがいるンだァ」
「アンタの目の前だよこのセロリ野郎…っ」
「ちょ、ちょっとぉぉ!本当にベッドを占領するヤツがいますか!この床で寝ろと!?起きてえぇぇ」
返事はない。ただの屍のよ…
「じゃなくって!もしかして音シャットアウトしてるわけ!?ムカつく!」
パン
「痛あぁぁ!そっか…殴ったら殴った分返ってくるのか」
しかし冷たい床の上で寝るなど自殺行為に等しい。名無しさんはそう思い、一方通行が寝ているベッドの隙間に身体を滑り込ませた。
「…ったく、見ず知らずの男に添い寝するなんて…あぁもう押しても動かないのかコイツ!狭い…!」
無理矢理布団を奪い、暖をとる。
「(………うわ、うわうわ睫毛ながーい!白ーい!)」
間近で見る彼は、驚く程綺麗だった。起きているときはこれでもかというぐらい眉間にしわを寄せているくせに、寝顔は正反対で穏やかだった。名無しさんは慌てて目をそらす。
「(びっくりするから!なんでこんなに綺麗な訳?何照れてんの私…!ドキドキするな!)」
学園都市第一位…かぁ、と名無しさんは天井を見つめながら思う。今でこそ思いのままに力を使っている彼にも、昔は失敗したことがあったのだろうか。例えば私みたいに、力を制御出来ない、とか―――
「オイ」
「ひゃ!?」
思案をやめ、慌てて左を見ると、眠っていたはずの一方通行が目を開けこちらを睨んでいた。
「オマエ、ナニしてやがる」
「ご覧の通り睡眠ですが!」
「そォじゃねェ、なンでベッドにいンのかっつってンだ」
「床で寝れる訳ないじゃない!」
「だからって素性もよくわかンねェ男に添い寝ってかァ?良い度胸だな」
「それはそうだけど………!?」
「……ふゥン、じゃナニされても良い訳か」
「……あ、あの?」
一方通行の手が、私の後ろ、つまり壁に触れた。そのまま彼は自分の身体と壁で私を挟むように、ただでさえ狭いベッドの隙間を更に狭くしていく。
「……ちょ、な・何か…?」
「ナニ、って……」
ゆっくりと彼の顔が近付いてくる。思わず怖くて私は目をぎゅっとつぶった。
「(まままままさか、き、キス!?)」
ぺろ
「!?」
彼はその唇から赤い舌を出して、私の下唇のふちをなぞるように舐めた。それから身体を少し起こすと今度は私の耳たぶを甘噛みする。思わずびくりと私は震えた。これから耳をひきちぎられるのではないかと、怖かったから。
「…くっくっ、オマエ、良い反応すンじゃねェか、これから楽しみだなァ?名無しさんちゃんよォ」
そう言って彼は私の顔を見ながら、ニヤリと笑った。この時ほど背筋が凍る思いをしたことは、多分…ない。