溢した缶コーヒーを片付けて、名無しさんと一方通行は打ち止めの待つ部屋へと戻る。気付けばもう夕方で、空は綺麗な夕焼けで染まっていた。
「あー…遅くなっちゃったな。打ち止め大丈夫かなー!?」
「少なくともオマエといるよりは安全だろ」
「…そうだよね」
ぽそぽそとしゃべりながら、二人で道路を歩く。
「(心なしか左の足首が痛い気がする…)」
きっと先ほど壁に打ち付けられた時に痛めたのだろう。名無しさんがそう思っていたときだった。
「オイ」
「……へ!何?」
「乗れ」
「…………え」
「左足、痛ェンだろォが」
「……そんなことないよ?大丈夫」
「オマエの大丈夫はあてにならねンだよ」
「で、でもそんな細い身体の上には乗れません!」
それが彼の気に障ったのか、一方通行は無理矢理名無しさんの身体を持ち上げた。
「………っほわ!?」
「オマエ一人ぐれェどォって事ねェっつゥの」
「や、普通に無理だから!」
「うるせェ黙れ」
チラホラと通り掛かる通行人の視線が無駄に痛い。名無しさんはそう思って一方通行の腕から逃れようとしたが、一方通行は名無しさんの発言を一方通行は力がないと言われたのだと思って気に入らないらしく、それを許そうとしなかった。
「〜っ、あーもーだからね?恥ずかしいんだってば!!」
「あン?恥ずかしい?」
「そうだよ!嬉しいけど恥ずかしいの!ホラ、視線がすごく痛いし!」
「……そりゃ悪かったなァ」
さすがに一方通行もバカップルか…という視線に気付いたらしく、名無しさんを下ろした。
「……でも、痛ェンだろォが」
「だから、「オマエの大丈夫はあてにならねンだっつゥの。何回言わせンだクソ野郎」
「…す、すみません…」
「…乗れ」
「…はい…」
結局背中を指さした彼に従って、名無しさんは背中に乗った。俗に言うおんぶというやつである。それでもやはり恥ずかしいのだけれど、足が痛いのは本当だし、と名無しさんは考えるようにした。
打ち止めの待つアパートに帰る頃には、空は暗くなっていた。
「おーそーいーよーってミサカはミサカはいつもより遅い夕食に腹を立ててみたり」
「あぅ…ごめんなさい…」
「名無しさんが謝る必要はないんだよ?ってミサカはミサカは言ってみる。あなたが助けに行ったのにどうしてこんなに遅くなったのかなってミサカはミサカはあなたを糾弾してみる!」
「…チッ…うるせェなァ…」
「それに名無しさんは足怪我してるみたいだし、ってミサカはミサカはあなたのダメっぷりにため息をついてみる!」
「あああのあの一方通行はここまでおんぶしてくれたのであって!ね、一方通行!」
「…なんだ、良かった、ってミサカはミサカは笑ってみる」
「…………ふン」
照れ臭いのか、一方通行はそっぽを向いてそういうと、いつものようにソファに横たわって寝る体勢になった。安心した、と言わんばかりに息を吐いた打ち止めが、いきなり声をあげる。
「あ!名無しさん、おかえり!ってミサカはミサカは言い忘れたことを思い出してみたり」
「!………あ、ありがとう」
「?なんでお礼を言うの?ってミサカはミサカはあなたのおかしな返事に首をかしげてみたり」
「そうだね。…ただいま、打ち止め」
その日の夕飯は、時間の都合上結局ファミレスに行くことになったのは内緒である。