ぶちゅり、と頭の上で嫌な音がした。直後、髪の毛を掴んでいた男の手の力が抜け、身体の上の重みも消えた。学園都市第一位に敵うものなど無いに等しいのだと、改めて思い知らされる。
「…アクセラ、助けに来てくれたの?」
名無しさんが顔を上げるとそこには見慣れた不健康なほどに白い肌の一方通行がいた。
「ありが、…?」
お礼を言おうと身体を起こしかけた名無しさんの身体の上に、今度は一方通行が乗ってきた。心なしかいつもより不機嫌そうにしている。
「え、ちょ、一方さん?」
「…ったくよォ、自称レベル2が苦戦してるだろォと思って来てやった、つゥのになンですかァオマエこの様はよォ」
「………え?」
「オマエ、手加減なンかしてンじゃねェ。そンな事してっから、あンな野郎に乗られちまうンだよ」
「………、でも」
「はァ?ナニオマエ、あンなヤツに乗られて嫌じゃなかったワケかよ?」
「違…っ!なんでそんなこと言うかな!?」
「うるせェよ」
「…っアクセラ、なんでそんなに怒ってる訳?意味分かんないし」
は、と一方通行は一度息を吐くと名無しさんの上から降りた。地面に倒れこんだままの名無しさんを上から見下ろす。
「そンなンじゃ、他の野郎にすぐ犯されっぞ」
「………心配してくれてるの」
「………」
「………心配してくれてるんだ」
「……違ェよ」
「私のこと心配して来てくれたんだ」
「…っ、だから、違」
「違わないよ!心配して来てくれたんでしょ、うわぁどうしようすごい嬉しい!あのアクセラが私を心配して助けに来てくれた上に貞操まで心配してくれるなんて嬉しすぎて「あァァもォうっぜェよ犯すぞこの野郎黙れ」「喜んで!」「はあァ!?もォオマエが意味分かンねェよ…ッ」
顔を真っ赤にしながら否定する一方通行が可愛いすぎると名無しさんは思った。そのまま一方通行をからかい続けながら、ニコニコしながら路地裏を出かけて…名無しさんは固まった。
「あ?どォし……オイ」
「す、すみません」
「転がってるだろォとは思ってたけどよォ」
「私だって!ちゃんとここに置いて、こうならないようにしてたのに!」
二人の目の前には、戦闘によって破裂し中身がぶちまけられた缶コーヒーが散乱していた。
「……オマエ、俺の財布持ってったよなァ」
「…はい」
「……俺の金で買ったンだよなァ」
「…はい…で・でも腐るほどお金はあるんだよね?一方通行は!」
「……、だからって無駄な浪費は許せねェよなァ」
またいつものように怪しい笑みを一方通行は浮かべ始めた。このままではヤバいと名無しさんは先に平謝りして許してもらおうとしたのだが。
「そうですよね!ごめんなさい!えっとマジでごめんなさい!」
「却下」
「ええええなんで、なんでえぇ!」
「オマエ、アレな。これからパシリ」
「や、やだあぁぁ」
「いや、もォ決めちまったからなァ」
「嫌だってば!」
と言いつつ絡めた腕を、彼はふりほどきはしなかった。