「…………」
「…………」
部屋の中で、時計だけが針を刻む音を立てている。先ほどまでコタツに座ってテレビを見ていた打ち止めも、さすがに飽きたのか、今はコタツに身体を預けてウトウトしていた。
「……名無しさん、遅いねってミサカはミサカはさっきから苛立たしげなあなたに行ってみる」
「……あァ」
「ミサカは大丈夫だから、コーヒー買いに行くの手伝ってあげなよ、ってミサカはミサカはあなたの背中を押してみる」
「……………悪りィな。ちょっとコーヒー拾いに行ってくるわ」
「………?なんで拾うの?って疑問に思いながらミサカはミサカはあなたを玄関から見送ってみる」
「ちゃンと戸締りしろよ」
「言われなくてもわかってる!ってミサカはミサカは胸をはってみる」
バタンと静かに扉が閉まった。
「あーあーもうこんな雑魚連れてくんなっつーの、面倒くさいな」
7、8人束になってかかってきたスキルアウト達を軽くのして、名無しさんはパンパンと手をはたいた。一応いつも通りに“手近にあるものを手のひらに移動させることができる能力”を偽って戦ってはいたが、だいたいレベル5の力を使うまでもない雑魚ばかりだった。
「…つまらない」
「それは悪かったな」
ポツリと呟いた言葉に、思わぬ返事があった。と共に、名無しさんの背中側にあった壁に亀裂が入る。バゴンという大きな音がした。
(な…っ、壁が…!)
爆風に押されて名無しさんの身体は吹き飛び、反対側の壁にぶち当たった。肺から酸素が吐き出される。
「…っ、かはっ」
慌てて身体を起こそうとしたが、横からいきなり髪の毛を強い力で掴まれた。その手の主は見たこともない男だった。壁に背中を預けたままの名無しさんの真正面、膝の上に跨がるようにして男はいた。
「あんた、レベル2なんだって?なんでそんな奴にあんなに金が出るかと思ったが…頭が良いんだ?結構強いね」
「るっさいな、その汚い手を離してくれない?」
「はは、あんた面白いね」
男は名無しさんの髪の毛を掴んだまま地面に名無しさんの頭を叩き付けた。横倒しになった身体の上に男が乗ってくる。
「威勢の良い女は嫌いじゃないね、どう?俺と一緒に来ないか」
それが人にものを聞く態度か、と名無しさんが言おうとしたときだった。耳障りなのに心地の良い声がした。
「オイオイSMプレイですかァ?楽しそうだなァ俺も混ぜろよ」
何で第一位が、という声は途中で消えた。