「打ち止め寝ちゃったねー」
「オマエ、ベッドまで運ンでやれよ」
「言われなくとも!」
先ほどまで一方通行が占領していたソファは、彼が入浴している間に風呂上がりでウトウトしていた打ち止めによって占領されていた。気持ち良さそうに眠っている打ち止めを名無しさんは抱き抱えると2つあるうちの片方の寝室に打ち止めを運んだ。
打ち止めに毛布を被せ居間へ戻ると一方通行はまたソファに横になって眠っていた。名無しさんがコタツの前に座り風呂上がりのまだ生乾きの髪の毛をタオルでパタパタやっていると、眠っていたはずの一方通行がじ、とこっちを見ていた。どうやら目を閉じていただけだったようだ。
「オイ」
「んー?なに?」
「ちょっとこっち来い。で、座れ」
「へいへい」
ソファに寝転がった一方通行の元へ名無しさんは行く。
「どっこいしょ」
「!?誰が俺の上に座れっつったこのクソ野郎!」
怒られた。
冗談はやめて、名無しさんはソファに座り直した一方通行の横に体育座りをした。
「オマエよォ、逃げてきたとか言ってたが、大丈夫なのかァ?」
「うん多分」
言いながら名無しさんは何気なく左手を左の膝の上に置いた。
「嘘だろ、オマエ嘘つくとき癖があるからわかンだよ」
「え、そうかな」
「ソレ。その左手。オマエ、嘘つくとき絶対左手動く」
「………ふーん、よく知ってるね」
「るせェ、4年も一緒にいたンだろォが。……オマエとぐれェしか話さなかったしよォ」
「そっか」
「で・大丈夫なのか」
「大丈夫だよ、アクセラがいるもの。」
「…どこからくンだよその自信はよォ」
「言ったじゃない。私はアクセラが好きだよって。だから大丈夫だよ、アクセラの側にいるんだもの」
「……あァそォかよ」
何となく、二人して下を向いて黙った。
昔もよくこうして肩を並べて話したな、と名無しさんは思った。あの時は今よりもっと一方通行は尖っていたし、今よりもっと弱かった。それでも怯えて全て偽り続けた自分にとって、自嘲しながらもその二本の足で立ち続けている彼に知らずの内に憧れた。その赤い瞳で見つめて欲しくて何度も何度も話しかけた。
ふ、と名無しさんは笑う。一方通行は怪訝な顔をした。
「好きだよ、一方通行。ずっと、言いたかった。ずっと、言えなかったけど…あの日も、嬉しかったのに…そう言えなかったけど、今なら言えるよ、一方通行。好きだよ、ずっと会いたかった…」
「………ふン」
いかにも興味がなさそうに一方通行はそっぽを向いたが、その左腕は確かに名無しさんを引き寄せていた。相変わらず白く細い腕が伸びてきて、斜め後ろから名無しさんを抱き締めた。まるで寂しかったのはお前だけじゃないとでも言うかのように。
4年間――それは怪物と呼ばれた二人が弱くて依存しあった長くて短い時間だった。
そして夜は更けていく。