「そういえばさぁ」
「あ?なんだ?」
学校が終わり、いつものように手を繋いで(三之助が迷子になるからであって、別に私が繋ぎたかった訳じゃないんだからな!決して!!)通い慣れた道を歩いていると三之助が何か思い出したかの様に口を開いた。
「先週の木曜日のだったか夕方に雷鳴ったじゃん?」
「ぅん…そうだったな」
「うちの妹が凄い怖がって泣いててさ、」
「ああ、哉ちゃんな」
どうやら妹の話らしい。なんだかんだ言いながら、こいつも家族大好きだよな。この前「まじ親父めんどくせえ」とか言ってたけど。
「そうそう。哉泣き虫だから。で、その時親父は仕事から帰ってなくて母さんはシロ連れて買い物行ってたらしくて、哉一人で布団に潜って震えてた訳」
「可愛いな、それ」
「だよな。俺が家に着いたのに気付いたらしくて二階からドタドタ走って抱き着いてきて、それからずっと離れないの。俺のシャツの裾握ってちょこまかついて来て」
「……で?」
「いや、可愛いなと思って」
ただの妹自慢か。
「…シスコン野郎」
「んー?そうかも」
へらりと眉を下げ優しげな笑顔の三之助は普段見れない。この表情はこいつが兄としている時だけしかしない貴重なショットだった。
(…私ではこの笑顔に出来ないんだろうな)
そう思うと少し切なかった。まだ小学一年生の哉ちゃんに対抗心を燃やしても意味はないけれど。でも悔しいものは悔しい。
「…あれぇ、作ちゃんヤキモチ妬いてる?」
「うるさい馬鹿之助!ニヤニヤしながらこっち見んな!」
私より身長の高い三之助はわざわざ体を屈めて私の顔を覗き込んだ。無駄にかっこいいこいつの顔が近づいたことによりカッと体温が上昇するのを感じた。多分顔が赤くなってるんだと思う。
「作ちゃんも俺から離れなければいいよ、ずっと隣にいるって小さい時に約束したもんな」
「…ほんと恥ずかしい奴」
「好きだよ、作良」
サラッと何処でも恥ずかしいことを言って、でも安心させてくれるこの顔はきっと私だけのものだ。これからもずっと。
そんなこと言われたら
離れられなくなるじゃない
「私も好きだよ、ばーか」