ため息と共に始まった授業。伝子さんの(雄々しい)声が響く。今日は僕の苦手な女装の授業なのだ。
「はぁ〜い、みんな。準備が終わったら、ここに集合よん」
やる気が出ないせいか、準備の為に部屋に戻る足どりが重い。化粧とか、女の子らしい仕種とか全くわからない。はあ。もう一度ため息をついた。
「金吾!」
やっと自分の部屋の前に来たとき、背後から兵太夫が声を掛けてきた。振り向くと既に彼は華やかな藤色の着物を身につけていた。早いなあ、さすが作法委員会だな。
「ちょっと来て!」
「え?僕まだ準備出来てない!」
「いいから、早く」
腕を引かれて、兵太夫と三治郎の部屋へ連れ込まれる。中には準備をし終えたようで、水色の爽やかな着物を着て立っている三治郎がいた。やっぱり似合ってる…。
「あー、やっと来た!待ってたよ金吾!」
「あっ…え?なんで?」
急に待ってたと言われても、意味がわからない。僕、なんかしたっけ?もしかして新作カラクリの実験とか?なんで、こんな時に。
「ほら、突っ立って無いで服脱いで!」
「うわぁっ」
無理矢理、忍装束を脱がされた。そして、三治郎が手にしていた藍色の着物を着せられる。深い藍色で赤と白の花が描かれた綺麗な着物だった。丁寧に且つ早く着せられたのは、凄いなあって思う。
「やっぱり、金吾は藍色が似合うね」
「えっと…ありがとう?」
「次は化粧だね!三ちゃん!」
「任せてー」
兵太夫に顔に薄く白粉を塗られて、唇には紅を引かれる。紅は余り濃い色ではなく桃色っぽい感じだった。髪も綺麗に結われて着物とお揃いの柄をした簪をつけてもらった。
「完成!どう、金吾?」
そう言われて鏡を渡された。覗き込むと、僕ではない可愛い女の子が移っている。あれれ…この子、まさか僕?ありえない!
「…僕、」
「金吾は素がいいからね。やり方次第で綺麗になるよ」
「ふふふ。兵ちゃんったら、ホント金吾大好きなんだから!」
さて僕も、と三治郎が自分の準備をしだす。三治郎、さっきの言葉って…。僕は顔が赤くなっていくのがわかった。ちらっと兵太夫を見ると、彼も僕程じゃないだろうけど赤い。
「兵太「僕も準備するから!!先行っててよ、金吾!」…う、うん」
僕は部屋から追い出され、集合場所へ向かう。
大好きって本当かな。
でも、そうだといいな。
三治郎!あんなこと言わなくてもいいじゃん!
でも、本当でしょ?
うー…