誰かの泣き叫ぶ声が響く。

人の肉が焼ける臭いがする。



仰ぐ様に見上げると空は夕日で朱く染まっていた。














「留三郎、いつまで泣いてるのさ」


さっき済ませてきた仕事は、子供好きの留三郎には酷なものだったらしく泣き止む気配がない。いや、さすがに僕も一つの村を全て焼き払うのはどうかとは思ったけどね。留三郎は年甲斐もなく切れ長の目からポロポロと涙が零れ落としていた。


「…優しいなぁ、君は」

「い、さく」

「なんだい?」

「…ごめ、ん」


急に謝られて首を傾げる。
何か謝られる様なことあったっけ。


「へんな留三郎」


そう僕が笑うと、留三郎も涙で濡れた目をパチクリして笑った。うん、やっぱり泣き顔より笑顔の方が留三郎には似合ってる。








そんな時だ。

留三郎の後ろにあった木が倒れて来たのは。
多分樹齢何十年、もしかしたら百年以上かもしれない巨大な木が留三郎に向かって来る。この木の下敷きになったら堪ったもんじゃない。助けなきゃ…!


「っ留三郎危ない!」


僕は手を伸ばす。


「…え?」


留三郎、早くそこを退くんだ!
それは声にならずに消えた。


なんとか留三郎の手を掴み安全な方へ引き戻す。これで大丈夫。良かった。なんて思っていたら足元にあった石に躓いた。

…ああ、なんて不運。

目の先には迫り来る大木。僕は無抵抗のまま、それを受け入れる羽目になる。

目の前が真っ暗だ。





「ぃ、伊作っ…!」


腹に強烈な痛みを感じる。あ、頭も打ったみたいだ。血が流れ出てる。熱い。だけど指先が急速に冷えていく。

僕、死ぬのか。


「…と、め」


声が上手く出ない。喋ろうとすると喉の奥から血が溢れてくる。焼けるように熱い。痛い。苦しい。怖いよ…。


「伊作!嫌だ、伊作!」

「はは…っ、ふ、ぅん、だ…な」

「ごめん伊作っ死ぬなよ、死ぬな…!」


ほら、留三郎。
さっきより涙で顔がひどいことになってるよ。泣き虫だなあ。もう僕ら、いい大人なのに。あの頃から何年経ったと思ってるのさ。あと少しで十年だよ。約束の年なんだから。仲間に会いに行くんだ。あいつらに笑われちゃうよ?

あ、約束…。


「ゃ、く…そく、ま もれ、なぃ」


声が掠れる。

目が霞み始めた。

力が入らない。

もう、動かないや…。




「伊作、なあ…っ、いさ…!」

「、と…めさ、ぶ…ろ、」




泣くなよっていつも僕に言っていたのは君だろう?笑って留三郎。僕の大好きな君の笑顔を見せてよ。そして僕の名前を呼んで。あの頃から何一つ変わらない君で居て。





「―…ぁり、が…と、」



せめてあの約束だけは守りたかった。







皆に出逢えて幸せだったよ

(少しは、恩返し出来たかな?)






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