何故だ。何故、目の前に居るのが…。目を疑うけれど事実は無くならない。耳を疑うけれど慣れ親しんだ声を、俺は覚えている。俺の五感は否定してくれない。
俺に刃を向ける、小平太の姿を。
「どうした、文次郎。腕が鈍ったか」
そこにかつての笑顔はない。あるのはギラリと睨む両目と表情のない顔だけだ。
覚悟していたはずだった。六年を共にした仲間が敵に成ること。そして刃を向け合うことを。
「逃がしはしない」
小平太は出来てるじゃねぇか。何故俺は出来ない。忍務を全うしなければならねぇのに。早くこの巻物を殿に届けなければならねぇのに。俺は。
ゆっくりと口を開く。
「…久しぶりだな、小平太。」
「世間話をする暇なんてない。巻物をよこせ」
「俺が渡すと思うか?」
「なら奪うまでだ」
―――ガキィン
互いの苦無がぶつかる音が響く。嗚呼、重いな。あの頃より更に力がついた小平太に勝てる気がしなかった。木々の上を転々と跳び、この場から離れようと試みる。だが元体育委員長に敵うはずもなく、見事に地面に叩き突けられた。
「い…っ…」
「文次郎、巻物を出せ」
苦無の先が首に当たる。俺は窮地に陥っているはずなのに、全く何も感じなかった。
…あの頃に戻ったみたいだ。
これ以上、殺り合っても無駄だ。それなら、いっそ
「…俺は、最後の誓いは守れないらしいな」
「……ぇ…」
小平太が握っている苦無に手を添え、目を閉じる。
「……文次郎?」
「すまない、小平太」
俺は思い切り、自分の首に苦無を突き付けた。
最期に見たのが仲間の顔で良かった。
先に逝くことを赦してくれ
(そんな顔すんな、俺の覚悟が足りなかっただけだ)