勇気からプロポーズを受けてから半年経って、
今日が俺達の結婚式だ。
"教会にしたい"と言ったのは、小さい頃に親父が、"条玲とバージンロード歩きたいなぁ"と言っていた事を思い出したから。
俺は所謂、"お父さんっ子"だった。
昔は親父の嫁になるつもりでいた。
母さんと親父の取り合いをすることもあった。
それが、今では勇気の奥さんになろうとしている。
ウエディングドレスを二十歳という若さで着るとも思わなかったし、まさか年下と結婚するなんて思ってもみなかった。
だけど、幸せなんだよな。
控室でスタッフの人にウエディングドレスを着せてもらい、髪を整えて化粧を施してもらった。
まるで自分じゃない様に思えた。
勇気は、"綺麗"と誉めてくれるかな。
まだあいつには、一度もドレス姿を見せていない。
だって、どうせなら一番綺麗なところを見て貰いたいじゃん。
少し、淋しそうだったけど。
きっと勇気なら解ってくれる。
コンコンとドアが叩かれた音がした。
「入るぞ、条玲」
いつもみたいにダラダラした服ではなく、ビシッとしたスーツを着た親父が入って来た。
「おぅ、親父!」
「似合ってるよ、そのドレス。俺の娘じゃないみたいだ」
なんで、こんなに幸せな日なのに親父は淋しそうなんだろう。
「ちょっと前までは、あんなに小さかったのに立派になって…」
「親父、今までありがとな」
親父に"ありがとう"と面と向かって言うのは、初めてかもしれない。
「俺を育ててくれてありがとう」
親父は驚いてるみたいだった。
急に、こんなこと言われるなんて思いもしなかったんだろう。
「条玲」
「親父が俺の父さんでよかった」
少し涙目になっていた。
ずっとずっと言いたかった、感謝の気持ち。
ちゃんと、伝わってるよな。
ああ、もうすぐ誓いの時間だ。
「親父!行くぞ」
親父と腕を組んで、教会の扉までいく。
その間に、二人で昔話をした。
ゆっくりゆっくり思い出していく。
勇気に出会うまで、親父が俺の一番だった。
「条玲、幸せになれよ」
微かに微笑む。
やっぱり、親父は笑顔がかっこいい。
扉に手を掛ける。
「親父が一番、大好きだった」
「っ…ありがとう」
さぁ扉を開いて前に進もう。
その先には、勇気が待っているから。
(ゴメンな、親父。今の一番は勇気なんだ。)
end
木村カエラ 『Butterfly』