飛行場は、夏休みなだけあってとても混雑していた。
高校がバラバラになってしまったのに、かつての雷門イレブンや、遠くからイナズマキャラバンの仲間が、豪炎寺を見送りに来ていた。
夕香ちゃんも、お父さんといる。
「豪炎寺!頑張れよ」
円堂がそういうと、みんな口々に"頑張れ"とか"また会おうぜ"って言った。
なかには、泣いている奴もいた。
「お兄ちゃん、早く戻って来てね」
「ああ、夕香も元気でな」
あいつは、そう微笑むと時間を確認した。
…時間まであと、十分もない。
俺も何か言わないと、と思うけど今、口を開くと泣いてしまいそうで。
「もう行く、な」
あいつは、歩きだした。
行ってしまう。
会えなくなる。
…ずっと覚悟してたのに、哀しくてしょうがない。
「豪炎寺!」
どうしても、とまらないよ。
口にしてしまうと涙が溢れてきた。
弱いところ、見せたくなかったのに。
「…行かないで!独りにしないで!!」
こんなこと言ったらあいつに、迷惑かけてしまう。
笑顔で送り出したかった。
だからこんな大きい声で、しかも人前で泣くなんて思いもしなかった。
「風丸、追いかけて来い!」
円堂のあの言葉を聞いたあと、俺は走った。
今日ほど、足が速くてよかったと思ったことはない。
だから、すぐに追い付いた。
「っ…豪、炎寺」
必死で、腕を掴む。
「風丸…」
振り向いたあいつは、涙を流していた。
初めて見た、あいつの涙。
「やっぱり、嫌だよ…豪炎寺がいないの…」
「ああ…俺も、嫌だ」
「不安なんだ…」
「すまない。…帰ってきたら、死ぬまで傍にいるから、
愛、してる」
そう言って、豪炎寺はドイツに旅立った。
あれから、四年。
今日、あいつが帰って来る。
これからはずっと一緒にいられる。
「ただいま、イチハ」
「おかえりなさい…修也」
end
奥華子 『楔』