豪炎寺がドイツに行くと言い出したのは、何時だっただろう。
雷門中を卒業して、同じ高校に入学して…
ずっと、一緒にいた。
あいつが医者になって、彼の父親の跡を継ぐ事はわかってたはずなのに。







終電後の誰もいない駅前の道に、俺達の影だけが揺らめいている。
豪炎寺が明日、ドイツに行ったしまう。
だから、今日は朝からずっと二人でいた。
もちろん明日も見送りには行くけれど、円堂達がいるので実質
、今日が俺達の別れなのだ。

もう会えないと、会えなく為るんだと思うと、胸が締め付けられる。

本当は行って欲しくない。

ずっと二人でいたい。

でも、俺には豪炎寺を引き止める事なんてできなかった。

手を繋いで、家へ帰る。
何度も何度も、二人で通った道だ。
綺麗な星空の下、何処からか、蛙の鳴き声が聞こえてくる。


「夏なんだな」


「ああ、早いもんだ」


「覚えているか、フットボールフロンティア世界大会のこと」


「ああ、すごく楽しかった。もう、三年も前のことなんだな…」


あの頃から、ただ傍にいるだけで笑いあえた。
何もいらない、何もしなくていい。
一緒にいてくれるだけで、俺は幸せだった。

だから、そんな毎日が続くと信じていた。

豪炎寺を忘れたり、嫌いになったりするくらいなら、この苦しい気持ちのままでいい。
このまま、二人で夜に溶け込めたらいいのに。


「風丸、キスしないか」


そういって、豪炎寺は俺の唇に触れた。
あいつの触れた場所が熱くて、痛い。
行かないで。
俺も連れていって。
俺を独りにしないでよ。
…この気持ちがあいつを蝕んでしまうまえに。


「…豪炎寺」


「なんだ」


「抱きしめて」


あいつは、優しく俺を包み込んだ。
いつもみたいに強く、お前の胸に俺を押し付けてよ。
少しでも長く、こうしていたい。

もう、喧嘩する事も

もう、やきもち焼く事も

もう、顔を見ることさえできなくなるんだ。


「風丸、必ず迎えに行くから」


「っ…うん」


不思議だね。
どうして人はすぐに、守れないであろう、約束をするんだろう。
人の心を繋ぎ止めるものなんてないと、知っているのに。

俺はどうして、こんなにも嬉しいんだろう。


「…だから、待っててくれ」


「っ…待ってる、ずっと待ってるから…」


最後の言葉が、優しすぎて、胸が痛いよ。
きっと、俺達はお互いを解りすぎてしまった。
俺は、あいつが約束を破らないことを知っているから。


俺の胸に、あいつを抱き寄せて、子供みたいな髪を撫でる。


「…頑張って来い」


俺に言える、精一杯の強がり。
あいつは、多分気づいているんだろう。
これからの長い間、横で笑う事も、横で寝る事も、名前を呼ぶ事さえ出来なくなる。

心を繋ぎ止められるものは約束じゃない。
約束は自分への、気休めにしかならないんだから。
それでも、その約束に縋り付いてしまう俺は、弱いのだろうか。

もっと強く抱きしめて。
あと一秒だけでも、あいつの心臓の音を聞いていたい。

これからは、喧嘩する事も、やきもち焼く事も、顔を見ることさえできなくなるから。


「行ってらっしゃい…修也」


「…行って来る、イチハ」


もう、会いたくなっても

もう、息が出来なくなっても

お前を呼んだりしないから。

我が儘は言わないから、

だから



早く、迎えに来て。







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