――――そう、これはただの昔話だ。

俺は十数年前に、ある夫婦の所に生まれた。俺の家は決して裕福では無かった。だが、お父さんは俺とサッカーしてくれたし、お母さんは優しく抱きしめてくれた。日曜日にはお父さんとお母さんと手を繋いで散歩に行ったりして、すげぇ楽しかったのを覚えてる。いつも笑顔の絶えない家庭。ありきたりかもしれないけど、そんな家族が大好きだった。…幸せだった。
まあ、幸せというものは永く続いたりしない。突然、お父さんがリストラにあった。お父さんが悪かった訳じゃない。お父さんは上司の濡れ衣を被っただけだった。それなのに。俺の両親は、この世の全てが終わるかの様に泣き狂った。運が悪いことに、借金まで負わされてしまっていた。毎週、毎週、毎日、毎日、借金取りは家のドアを叩き金を請求した。お父さんとお母さんが玄関で土下座してる所を何度も見た。いつの間にか、うちは笑い声のない、啜り泣く声だけが響く家になっていた。『偉くなりなさい』とある日、お母さんに言われた。それがどういう意味か、あの頃の俺に解るはずがなく。それでも、お母さんに笑って欲しくて、もう一度抱きしめて欲しくて、頷いた。必死だった。歪んだ方向に進んでしまった。力が全てだと信じ、喧嘩に明け暮れた。そして、サッカーをやりまくった。あの楽しかった時期を取り戻したくて。俺、何か悪いことしたのかな。それから家族は崩壊し、借金取りから逃げる様に身を潜める生活が始まった。俺は路地裏の暗い世界へ足を入れた。そこでトップに立つのは容易なものだった。ある日、俺は拾われた。そして、「強くなりたくはないか?」と、問われた。なりたいに決まってるじゃねぇか。当たり前だろ。そう、答えた。今、思えば何故あの人を信用したのかは解らないが。親には黙って、愛媛の真帝国へ行った。そこで初めて"力"を与えられた。それからは、お前の想像通り。てか、知ってるだろ。真帝国のキャプテンとして暴れまくってさ、バカみたいだ。でも、それしか俺に出来ることは無かった。

ね、鬼道ちゃん。
こんな俺をどう思う?幻滅した?同情した?馬鹿だなって思った?不甲斐ない俺に。



「不動、」

「何?」

「お前が、すごい愛おしいよ」






もう一度、あの頃に戻れるなら。
戻れたら…、そうだなぁ
お父さんとお母さんと、ずっと一緒に居てぇな。

でも、あんたに逢えたから
今のままで満足してるさ。


バカと笑っても構わないから、

俺を受け入れてくれる?






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