影山が死んだ。
二日前のことだ。それは突然なことで、脳が全く追いつかない。悲しいのかさえ解らず、涙も出ない。相変わらず寂しい人間だと、そう思った。
ただひとつ言えることは、あの頃の俺は総帥という存在だけが全てで、世界だった。俺は、あいつに縋っていたのだ。
そして俺は、裏切られた。いや、俺が裏切ったと言った方が正しい気がする。海へと真帝国が沈んだ時、俺は一緒にあいつと死ぬつもりだった。でも俺は今、生きていて。二流と言われ、とても悔しかったのを覚えてる。所詮、俺は鬼道の代わりでしかなかった。
―――奴は、月みたいだった。
何処に居ても、観られてる気がした。朝も、昼も、夜も。太陽の様に沈まず、真上から俺を見下して。どれだけ厚い雲で覆われていても、決して変わらずにそこにあった。
それなのに、
闇に沈んでしまった。もう、あの月が昇ることは無いだろう。ついに俺は自由になった。
眠れない…。いや、それ以上に一人の夜が怖い。苦しい。辛い。寂しい。
枕元にあった携帯の電話帳を開く。目的の名前を見つけると発信のボタンを押した。プルルルと何秒か経ってからガチャっと音がした。
「…なんだ」
寝てるとこを起こしてしまったので機嫌が悪いらしい。いつもより声が低い。
「鬼道くん、」
「不動、どうした」
「…なあ、寂しくない?」
何時も側にあったあのプレッシャーの様なモノが無くなって。寂しくないか。張り合うモノが無くなって。
「…寂しくない、と言ったら嘘になる、」
「…っ」
「ああ、そうか…。寂しかったんだな…」
鬼道くんのその言葉を聞いて、何故か涙が零れた。俺一人では無い。心に溜まっていた物が消えていく気がした。
「…不動、泣くな」
「泣いて、ねぇよ…」
「ほら、早く寝ないと朝が来るだろ」
「そうだな、」
「お休み」
そう言って電話を切る。
ああ、もう大丈夫だ。
――――俺の長かった夜が明ける。
end
濁る瞳様に提出。