俺達の関係は、ただの監督と選手だったはずだ。


なのに、どうして…。
何故か俺は、コイツに抱きしめられている。思考回路が働かず抵抗するのを忘れ、コイツの以外と堅い胸板に顔を埋めることしかできなかった。ふんわりと香る香水の匂いが心地良い。誰かに抱きしめられるなんて、何年ぶりだろう。


「不動、」


いつもとは違う優しい声だった。でも、どこか悲しげで掠れた声だ。


「…すまない」


何に謝ってるのかが、全く解らない。ふいに、細長い指が俺の頬を撫でる。コイツの指は冷たくて気持ちが良かった。指が顎まで来ると、強引に唇を塞がれた。


「んん…んふぁ…」


クチュクチュと水音が部屋に響く。顔が熱くなっていくのがわかった。


「…不動。俺は、お前を」


まさか、好きだって言うのか?愛してるって言うのか?だが、目がそう告げてる。あてもない感情に名前を付けて、愛だとか恋と呼んで。ソレで縛り付ける。

俺、ダメなんだ。そういうの。


「愛しても、いいか…?」


不安そうに聞いてくるコイツは、心なしか声が振るえている気がする。こわいのだろうか、この罪が。これからの俺らの関係が。


「、かんとく」


この先の言葉が見つからない。喉から声は出ず、息だけが漏れる。ただ、じっと目を合わせることしか出来ない。


「不動…?」


嬉しい、だけど苦しくて…。こんな俺を愛してくれることが。きっと、俺は誰かに愛されたかったんだと思う。だって、こんなにも胸が裂けそうで。目から涙が溢れてるんだから。


「お、れは…っ」


でも、慣れてないんだ、こんな感情。
頭の中を溶かしてドロドロにしたみたいに。胸に火をつけたみたいに。体中が熱くて…。


「監督を…っ、道也を、思うと…胸が、苦しい…。


…ねぇ、これが…好きってこと、なの?」


「不動…」


「…わかんねぇよ!」






神さま、神さま
こんな俺が、誰かに愛されてもいいかな?
こんな俺が、誰かを愛してもいいかな?

幸せを望んでも、いいかな?


――――なぁ、俺の大嫌いな神さま?









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