どうにか予定より早く仕事を終わらすことができたので、急いで家へ帰った。
だが、家は電気一つ点いていなく真っ暗だ。
一気に不安が募る。
「不動、どうしたんだ」
不動は寝室のベットで布団に丸まっていた。
明らかに、いつもと様子が違う。
俺は部屋の電気をつけて、布団をめくった。
「不動…っ」
あいつは涙を流していた。
静かに声を出すこともなく一人で。
赤くなった目が俺の方を見た。
「鬼道ちゃ…」
俺を見た瞬間、何かが切れたように嗚咽を漏らしながら泣きはじめた。
枕元に手帳の様な物を見つけた。
「何だ…」
手にとって表を見るとそこには、"母子手帳"と言う文字があった。
「不動、これは…」
「…妊娠してた、俺」
「そうか」
余りに驚き過ぎて、他に言葉が出てこない。
不動は泣き続けている。
「どうして泣いているんだ」
「…俺、子供なんて、育てれない…そんな資格、ない」
何も言えなかった。
不安なのは俺にだって解る。
だって、俺達は本当の親からの愛なんて知らないんだから…
「…俺、まともな生き方してなかったし
俺のせいで、虐められたり、したらどうしよう…
生まれて来なきゃよかったって言われたら、俺…」
「だけど、俺はお前に産んで欲しい」
しっかりと不動の目を見て、俺の気持ちを伝える。
なぁ、不安だけど嬉しいだろう。
「俺は、お前と血の繋がった家族が出来て嬉しいが、お前は違うのか」
「…う、れしい、けど」
「俺が支えるから、お前だけに任せたりしない。きっと幸せにしてみせる。だから…」
こんなにも嬉しいのは初めてかも知れない。
家族と言う物がよくわからなかったが、これから知っていけばいい。
「俺のために産んでくれないか、明」
幸せの条件なんて知らないが、今の俺は誰よりも幸せなんだと思う。
「鬼道ちゃん、…産むよ」
不動はふにゃりと笑い、俺に抱き着いた。
"絶対に幸せにしろよ!"と耳元で言われた。
きっと今日から、俺達は本物の家族になる。