鬼道が出勤した後、本格的に体調が悪くなった俺は、素直に病院に行くことにした。
朝一番だというのに大勢の人がいて、少し驚いた。
季節の変わり目だから、自分も風邪を引いたんだろう。
『鬼道さん、鬼道明さん。五番診療室にお入り下さい』
一瞬"鬼道"という苗字に疑問を覚えたが、半年前に結婚した事を思い出す。
あまり自覚がなかったせいか、改めて名前を呼ばれると少し恥ずかしかった。
診療室には、優しそうな女医がいた。
「鬼道さん、ですね。こちらにお掛け下さい」
そう言われたので、女医の前にある椅子に座った。
「今日はどうなさったんですか」
「…体調が悪くて」
"当たり前の事を聞くな"と思ったが、社交辞令みたいなものなのでしょうがない。
「症状はどんな感じですか」
「…ねむい、だるい、微熱、気持ち悪いが一週間前から」
俺がそう言うと、女医は驚いたような顔をした。
何一つ意味が解らない俺は、首を傾げる事しか出来なかった。
女医は俺の事なんか無視して、看護師と何か話している。
"もしかして"と言ってから、こっちを向き直した。
「失礼ですが、結婚はいつ頃に」
「…半年前だけど」
「前回の生理はいつ来ましたか」
「え?」
予想外の質問をされて、多少怯む。
何故、そんなことに答えないといけない。
だか、相手は真面目に聞いてくるので、理由でも有るんだろう。
俺は、指を折って数えた。
「たしか、三ヶ月前…」
「ちょっと、こっちの部屋に移ってもらってもいいですか」
そう言われて、となりの部屋へ移る。
柄にもなく、少し不安になった。
「こちらのベットに寝てもらえますか」
「はぁ」
それから何個かの検査を終えて、診察室に戻る。
心なしか、女医が笑っているように見える。
何か有るのだろうか。
「鬼道さん、おめでたですよ」
「…え」
「三ヶ月です」
それから女医は何か話していたような気がするが、俺は放心状態で何も覚えていなかった。
ただ、あの宣告が頭の中で鳴り響いている。