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現パロ







「今日は端午の節句、男の子を讃える日だ。我が家は頼りになる子ばかりだからね、柏餅くらしいかないけど、息子たちの功績を讃えたいと思う」

元就は皺を更に深くして笑った。今日は元就の言う通り端午の節句、男子の健やかな成長を祈願し祝う日だった。中国から伝わり鎧兜を飾ったりちまきや柏餅を食べて祝ったりするそうだが、名前が突っ込みたいのはそこでは無い。

「男の…子…?」

名前は周りを見渡し、もう一度目を擦りってから周りを見渡した。

「おとこの『子』…?」

「名前、何故私をガン見して言うのですか」

名前の目線の先には微笑んだ隆景が座布団に座っていた。隆景の左には元春、右には隆元が座っており、各々溜息をついていた。
ここは毛利の本家で、今は元就が一人隠居している。敷地は程々広く純和風な邸宅で、元就一人では広すぎる程だ。そこの一室に隆元、元春、隆景、名前が集められた訳だが、集められた理由が端午の節句だと言うわけだから溜息を吐くのも無理は無かった。因みに毛利家は元就が一代で築いた財閥であり、元就の跡継ぎで主力であるこの場に居る三兄弟は大忙しであった。それなのにこの御隠居様は…。
名前はと言うと、毛利家のお隣のごく一般的な家庭の生まれで、幼い頃から元就と三兄弟に何かと面倒をやいてもらっていた。今は大学生になり元就たっての希望で毛利家のお手伝いのバイトをしている。

「どちらにこどもがいらっしゃるのですか元就さん」

「私からしたら、三人とも可愛い子どもだよ」

「年の話はやめましょう父上、頭が重い」

隆元は頭を抱えた。長男の隆元は三男の隆景とは10歳違いで、たまに年について嘆いている隆元を屡々見かけることがあった名前は慌てて話題を変えた。

「えっと、柏餅いいですよね。元就さんお餅推しますよね!」

この言葉に関しても、三兄弟は焦る素振りで名前の方を見た。何か地雷だったようだ。隆元は頭を更に抱え、元春は口パクで何かを訴え、隆景は切ない目で此方を見た。名前はまた慌てて、口を塞ぐが時すでに遅し。

「そうだよ。ご飯に比べて腹持ちがよくて、米の成分が凝縮されているからね。戦国時代では滋養強壮食だった程なのさ。長い合戦でもスタミナ切れの心配をせずに済む理想的な兵糧…」

「兵糧…今兵糧って言ったな確かに。自覚はあるんだな…」

「…餅を見る度に連日の残業の差し入れが思い出される…吐き気が…」

元春と隆景は小さな声で囁きあった。元就が一代で築いたと言ったが、その力で多くの事業に手を出した。どれも成功しているのだが、後処理は全て三兄弟に流れて来ている。どれも効率良くこなす兄弟だが、残業の日には嫌味なのか励ましなのか、決まって元就から餅の差し入れがあった。味付けや調理方は違えど餅は餅、もはやトラウマレベルだった。唯一の救いといえば、持ってくるのが名前という点のみだった。

「…申し訳ありません父上、今日は私も親として輝元の元にいてやりたいのですが」

「よし、輝元も呼ぼうか」

「私も残業が残っておりますので」

「後日なんとかなるさ、今日は一年に一回の日だ」

「…」

「…」

「ほ、本がy「隆景」

隆元、元春の主張は一蹴され、これは何を言っても無駄だと悟った隆景は元就をちらりと見たが笑顔で返され、気持ちを述べ切る前に制されてしまった。三人は揃って俯く。三人がとても小さく見える、御隠居恐るべし。
気の毒だな…と名前は温かい目で見守ることしかできない。しかしあまりにも三人が拒否しているので、餅が嫌いでは無く寧ろ食べることが好きな名前は切り出した。

「元就さん、私柏餅大好きなんです。全部下さい。食べきれなかったら持って帰るので」

「そうかい…?名前がそう言うなら、たんとお食べ」

名前の申し出に三人は一瞬で目を輝かせて生気を取り戻した。隆景に至っては真顔で手を合わせ拝んでいる。元就は名前に甘いと、名前本人も自覚しての行動である。元就は机の上の柏餅がのった皿を名前の前に置いてやった。早く食べて三人を帰らしてやらねば。早速手に取り一口頬張った。元就も一つ手に取り、食べる。

「息子達に囲まれて美味い餅を食べる…幸せな父親だ」

「美味しい!我ながら上出来です。作った甲斐がありましたよ」

「「「え?」」」

名前の言葉に三兄弟は止まった。

「今、何と言いました?」

「ん?息子達に囲まれて餅を食べ…」

「父上ではありません。名前です」

「父への扱い…」

「名前が、この柏餅を作ったのですか?」

隆景は名前が持つ柏餅を指差し、真剣な面持ちで名前に問う。父への扱いはこの場合わざとかもしれないが。

「はい。昨日元就さんに頼まれまして。今朝試行錯誤しながら!蒸し器まで使っちゃって、終いには電子レンジでなんとかなったんですけど」

名前は当たり前のように語り出した。料理を作るのが好きなので作り方を語り出し始めると嬉しそうなのだが、隆景が確認したかったのはそこでは無かった。それは隆元、元春も同じ気持ちだったようで、三人は食べたくないと言ったはずの柏餅に手を伸ばした。

「いただこう」

「え?」

「自分もいただこう」

「えっ、でも皆さんお餅は…」

「今日は一年に一度の行事ですからね。楽しまなければ勿体無いですよね、名前」

「??はい…?」

隆景はそう言うと名前の頭を撫で、柏餅を食べた。隆元も元春も続いて食べ、あっという間に平らげてしまった。三人は二個目の柏餅に取り掛かり、その様子を見て名前は無理しているのではと心配になる反面、自分の作ったものを食べてもらえて嬉しかったので、何も言わずに並んで餅を食べた。

「やっぱり三人ともまだまだ子どもだね」

上座に座っている元就は、茶を啜りその様子を眺めて楽しむのだった。


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