戦国msu | ナノ




吉継

流浪演武大谷ルート終わった後の女の子前提




元就より武将列伝を完成させる任を負った名前は、各地を転々と旅を続けていた。まずは周りから攻めて行こうと、九州、四国、そして先程近畿の大阪城を後にしたばかりである。元々旅好きな名前は、賃金は全て払っていただけるし、苦も感じないだろうし楽しもう!容易に考えていたのだが、まさかこんなに勝負を挑まれたり救援を求められたり皆が皆戦国を楽しんでいるとは思ってもいなかった。次の目的地に着く度戦に巻き込まれ、一生懸命になる自分も馬鹿だとは思いつつ、酷使した名前の身体は疲労が溜まっていた。疲れすぎて元就に怒りを抱く気も失せてしまった。回復したら元就の著作を全部焼べるという野望は抱きつつ。ともあれ、今日も今日とて豊臣との戦に巻き込まれ足取りおぼつかず、やっとの思いで宿場についた。部屋に案内され一人になった瞬間名前は畳に倒れこんだ。いいことといえばしっかり朝夕、更に昼も食事を取り睡眠場所が確保できることくらいであろうか…。金は無駄にあった。
名前は料理も程々に、四肢の疲れを癒す為、先程女将に教えてもらった宿場の裏手に湧くという温泉に向かった。

「わー、立派」

宿場から坂を下って着いた温泉は、狭すぎず広すぎす、岩肌が曝け出されており風情がある立派なものだった。それなりに高値な宿場な為か名前以外誰も居なかった。名前は貸切状態に気持ちが高揚する。申し訳程度な脱衣所で着物を脱ぎ、腰巻を着用し湯に浸かった。

「ふいー…いい湯加減」

お湯は程良くいい温度で、名前は疲れが湯に溶けていくように感じた。両手の指を絡め空に伸びをする。快適である。

「このままお湯と一体化したい…」

「それは恐ろしいな。骨の髄まで溶けるのか」

「ひっ?!」

突如自分以外の声が発せられ、名前は驚き肩まで浸かっていた身を勢い良く上げた。声の主が男性だったのも要因の一つだった。水飛沫が四方に飛び散る。

「ど、どっ何方様でしょうか?!」

「わからんか。ではこれでどうだ」

そう聞こえたかと思うと、肩に擽ったい感覚が走る。見ると、鋸の歯のような刻み目の紙片が幾重も当たっていた。その紙の付け根は棒に繋がっており、棒は名前がもたれかかっていた背後の岩の上から伸びている。これは采配だ。采配と言えば先の戦で思い当たる武将が一人居た。

「大谷…さん…?ですか…?」

「正解だ」

当てられたのを喜ぶように采配がわさわさと動きあんまりにも擽ったいので、采配を強引に押し戻してやった。「痛い…」と聞こえたが知らない。采配で遊ぶ様子を見ると案外茶目っ気がある人物なのかと思うが、何度か協力して戦った経験があっても彼は性格が掴めなかった。警戒心も強くなる。
自分の身を如何なる時も守れるように刀を側に置くのはわかるが、あの采配の紙は温泉の蒸気に湿気らず何でできているんだろうと気にする名前だが、口に出すのを堪える。岩一つで遮られた向こう側には大谷が居ると理解すると、見えてないとはいえ生理的に身を丸め胸を覆う。男性が相手ということは一理あるが、彼は性格が読めない分手の内も見えない。自分の気を紛らわす為に話しかける。

「お、大谷さんは何故こんな所に?」

「俺が湯浴みに来ていたら可笑しいか?」

「(や、貴方の性格読めないんです)いいえ、可笑しくないですよ。ただ、何故城から結構離れたこの宿場にと思って」

「この温泉が気に入っているからだ。それに、温泉は疲れの溜まった身体に効くという。いつ来ても静かで心落ち着くが、この時間帯に来ると大抵人が居ない」

「…そこに私が居た、と」

「そういうことだ」

今の話振りだと、大谷はわざわざ人が居ない時を選んで来ている事になる。ということは、私が居ると心落ち着かず、ということにならないか。名前はそう結論付ける。腕に力が篭る。

「誰もお前が邪魔だとは言っていない」

空気を察したのか、大谷は答えた。

「一人で何も考えずに身体を癒すのも好きだが、こうして誰かと話しながら浸かるのも悪くない。流れに乗るまでだ」

「流れですか…」

「しかし名前となら話は別だ」

名前はきょとんとした。大谷は流れのままに身を任せる人物なのだと思っていた。やはり彼は読めない。

「私が…何ですか?」

「…」

大谷からの返事は無かった。沈黙が流れる。此方も気になるように仕向ける罠だろうか。沈黙に落ち着かず名前は身動ぎする。なんて自分本位な人なんだろう。名前もどうでもよくなってきて、足を伸ばし軽くばたつかせた。

「もう…大谷さんはもっと自分の事を積極的に話して下さいよ。わけがわかりません」

鼻の下まで湯につけ息を吐き泡を立てる。まるで不貞腐れた子どものようだと自分でも思う。やるせない。すると岩の向こう側でも水音が聞こえた。

「ふ…すまない。前にもそう言われたな。だが同時にお前は流れるままでも悪くないとも言ってくれた」

この水のように。大谷はそう言うと水を掬い空に投げた。名前の方にも水滴が降ってきた。そう言えば大谷の元を去る時に、川原でそんな話になったかもしれない。

「そう言ってくれるお前と、心落ち着く時を共に過ごせる時間はきっともう無い。この乱戦、気が落ち着くのはほんの一時かもしれない」

「大谷さん…」

名前は胸に針が刺さる様に痛んだ。彼からしたら本当にここに訪れは一人で気を休める唯一の場所だったのかもしれない。大谷は石田三成と親しい間柄で、きっとこれから先、三成に何か起こればどんな険しい道でも大谷は共に歩んで行くだろう。名前は三成の事は嫌いではないが、あの性格はいつか大切な時に大損を生むだろうと確信して居た。きっと大谷もそれをわかって居るからこそそばに付き添い、こうして一人静かに物思いにふけるのではないか。名前は大谷が言う流れに逆らう時は、彼は死を覚悟するし儚く散って行くのだと感じるのだった。
そこで名前は思い立ち、側に置いておいた大きめの手拭いを胸に巻いた。

「大谷さん、そちらに行ってもいいですか」

「……」

「あっ、色々見ませんよ!頭巾は多分身につけてませんよね。嫌ならお顔をそらしててください」

「……お前がいいなら、構わない」

「では失礼します」

名前は岩の向かい側に湯に浸かりながら進んだ。まず目に映ったのは、真っ黒な髪。大谷の長い髪は湯に散々と浮かぶ。次に病弱なのも関係してか真っ白な首筋。普段の頭巾をつけておらず、顔は露になっているのだが、大谷は少し顔をそらしているのと、長い髪が影になり確認できない。下は見ないよう配慮し、名前は大谷の横に身を置いた。名前本人も心臓が喧しく打っているが、こうでもしなければこのまま大谷と会う機会が無くなるのは悲しかった。露と消えてしまいかねない。

「大谷さん、吉継さんとお呼びしていいですか」

「好きにするといい」

「ありがとうございます。吉継さん、間近で見ると、とっても髪がお綺麗ですね。肌も真っ白。女として嫉妬しちゃいます」

「生まれつきだ。くれてやれるものならやってもいい」

「無理ですね」

笑って、名前はどこか遠くを見た。私は課せられた命に従いこれからまた各地を巡らなければならない。その時までに、彼がいなくなっていませんように。

「ねえ、吉継さん。お友達になってください。戦とか関係無い、ただのお友達。ここの温泉でまた一緒に湯に浸かって、今度はこの間の川辺を散歩しましょう」

大谷は名前の方を向いた。名前も大谷の顔を見て、目を奪われる。普段隠れたその顔は白く、見えなかった口元は表情など無いように恐ろしく整っていた。肌に張り付いた黒髪に気にもとめない。細いが男性らしい筋肉がついた体がなければ、誰もが女性と見紛うだろう。

「不思議なやつだ」

ふ、と大谷はの口は小さな弧を描き笑んだ。その一つ一つの表情の変化さえ美しい。普段見れない様子に名前は見惚れる。

「俺はお前が好きだと伝えたが、今もその気持ちに変わりはない、名前」

今度は大谷が名前の目を見て告げた。この人程好意を素直に伝えられる人物は居るだろうか。名前はその言葉に安堵し、満足した。
しかし、大谷の視線が自分の目ではなく、もっと下にあるのに気づいた。

「良いものも見れるしな」

かっと名前の頭は一瞬で逆上せた。手拭いで隠しているとはいえ、水分で肌に張り付き乳房の形はくっきりと見て取れた。咄嗟に手で胸を隠すがは眼福、とばかりに満足げだ。このやろう。

「今度は襦袢を着て入ります!」

「それは勿体無いことをした、見納めか」

「それを言うなら私だって吉継さんのお顔をこれでもかと見てやりますからね」

「本望だ」

何を言っても大谷には通用しないと理解した名前は、諦めて岩に背を預け空を見上げた。もう日も暮れつつあり、茜色の空が広がっていた。ぼんやりと眺めていると、大谷が名前に肩を寄せて来た。肌と肌が触れ合い、大谷の髪が名前の肌に張り付いて来るが、不思議と悪い気持ちではない。気恥ずかしさは拭えないが、今は安らぎや居心地良さの方が上回っていた。

「裸の付き合いですね」

「…文字通りにな」

大谷は笑み、名前と共に空を見上げた。

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おまけ



「うちの名前と一緒に湯浴みして、裸のお付き合いになったというのは君かい?」

「…潜んで付いて来るくらいなら側についてやれ。と言うより子離れをしろ。手甲をこちらに向けるな」


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