※拍手まとめの淫魔シリーズをご覧になってからお楽しみください
「(うとうと)」
「うたた寝の最中に失礼、お嬢さん。」
「う、ん?はい…何でしょう」
「教会の外れの森で女性が一人うたた寝なんて、感心しないな」
「ご忠告痛み入ります…。最近夜に謎の来訪者が沢山来て眠れなくて。お祈りが終わってから我慢できずに…」
「それは気の毒だね。同じ種族の誼だから伝えて置くよ」
「それは大変有難いです。って、え?誼って」
「はは。やっぱりわからないかい?私は先日から君のとこに行ってる夢魔達より西に住む、毛利元就。例の如く淫魔さ」
「嘘、悪魔って夜じゃなくても来れるんですか?!今真昼間ですよ?」
「若い連中は夜しか行動できないけど、私はこの通り老いぼれだからね。年の功ってやつかな」
「そんな…。それでも諦めずに逃げます!」
「残念。最近の若い連中の相手で寝不足なんだろう?うたた寝してたから昼間でも君の夢に入り込めたんだ。私が入ったから、もう君はうたた寝なんかじゃなく深く眠りについている。寝不足も祟ってるしね」
「う、退路が完璧に絶たれてる…!」
「ふう、本当は昼間動けるって言っても、少し怠いんだよなあ。まあ今回は他の連中に邪魔されない策を取ったから、多少頑張らないと。生きる為だ」
「何で私のところばっかり悪魔が集まってくるんですか?」
「君たち人間も美味しい食べ物が食べたくなるだろう?それと同じさ。君からは、人間で言う"食欲を誘われる匂い"が漂ってるからね」
「え、そんなに私臭うのかな。なんだかショックです」
「安心していい。淫魔しか嗅ぎとれない独特な物だから、体臭じゃない、よっと(ダン!)」
「ひっ」
「さあ、追い詰めた」
元就は名前がもたれている木の幹の、名前の顔の真横に強い勢いで手を置いて、逃げ場を更に無くした。
「(今の行動といい退路を絶つやり方といい、この人は優しい顔をしてきっと腹の中が真っ黒…。初めて思う、怖いって。…今までがかなり異質だったのもあるけど)」
「前戯するのが面倒だ、取り敢えず足開いて欲しいんだけど」
「?!」
「大丈夫、いけるいける。痛くて泣き叫ぶかもしれないけれど、徐々に癖になって溺れてくるから」
「や、やだ、本当に、や…怖…」
「新鮮だなあ、その怖がり様、初々しい。それに君程美味しそうな女性中々いないよ」
(ばさばさばさばさ)
「文字通りお邪魔しますよ、父上。またこんな所で父上は何人女性を孕ませれば気が済むのですか。お年もお年なのですから、間隔を空けて事をなされていただきたいものです。後処理を毎回させられる此方の身にもなってください」
「?!何これ、本の頁が飛んできた?」
「いててて!あらら、隆景に見つかってしまったか」
「執筆していると思って静かに、それも久々の著作に胸踊らせて待機していたのですよ。気付いて見ると筆半ばの書物のみが部屋に残されていて…きっと常人なら発狂していたでしょう。私は悪魔の誇りをかけて気を保ちましたが」
「(よくわからないけど、常人は発狂しないと思う)えー、貴方は?」
「私は隆景。彼、元就の実子です。父がお騒がせして申し訳ありません」
「お騒がせ以上にどういう父上ですか彼は。悪魔にしてもやり方が怖いですよ(グスン)」
「こんなに怯えて、可哀想に。おいでなさい(ぎゅっ)」
「うう…」
「やれやれ参ったな、折角見つけた上等な獲物なのに」
「最近の行いの罰が当たったと思って、今回はお引き下さい」
「そうするしか無い様だね。お嬢さん、またいずれ」
「あ、消えた。こ、怖かったあ〜」
「申し訳ありませんでした。隠居してただの老いぼれだと豪語しながら、現役以上にことに及んでいます。最近の強引なやり方は私どもも頭が痛いのです」
「本物の悪魔が拝めました…。ところで、若い夢魔はお昼は出て来れないんじゃないんですか?隆景さんは平気なんですか?」
「ふふ、そうですね。何故でしょう」
「(顔面年齢詐欺?)それに、庇ってくれましたけど隆景さんも淫魔ですよね?もうこれ以上身の危険は避けたいのですが」
「こんなに怯えた貴女を襲おうとは思いませんよ。私は行為に関する人間の価値観を理解したいと思っております。人間にも色々な種類がいますからね、相応の方にお相手を願っております。それに、本を読んでいれば欲も薄れますから」
「へえ…隆景さんみたいに、共存を考える淫魔もいらっしゃるんですね。しかし淫魔の欲と読書の欲が同等って凄いですねなんだか。緩いんだか固いんだか」
「ですが、寿命に関わるのでもう少し貪欲になるべきなのでしょうか。綺麗事はどの世界でも通らないものです」
「命と読書を計りにかけてらっしゃる?!なんて禁欲な淫魔!人間の私がこう言うのも何ですけど、程々に欲を満たして下さいね?」
「わかりました、努力します。…正直貴女の魅力に私も犯され始めてしまっているようですし」
「ええ。やっぱ隆景さんまでも…?」
「心配いりません、これだけで我慢しておきます」
隆景は再度名前を腕の中に包んで肩に顎をのせ、首筋に顔を寄せた。
すると隆景は、名前から香る匂いを深く吸い込んで肺に取り込み、堪能してからゆっくりと吐き出した。隆景からの生暖かい吐息が名前の首筋を直に擽り、ぞくぞくと名前の感覚を刺激した。猛烈に湧き上がるこの気持ちは何だろうか。
「ふう、これだけでも少し満たされます。…おや?更に匂いが濃くなったようですが」
「…しい…」
「はい?」
「もどか、しい…隆景さん…っもっと」
「…これはこれは、私の妖気があたったようですね。光栄ですが、貴女はよろしいのですか?これより先は本能に任せるので、嫌と言われても止められませんよ」
「…隆景さんなら」
「左様ですか。貴女のような魅力的な女性を抱けるとなれば、読書の甲斐がありました。では、昼間からはした無いですが、」
いただきます。
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