戦国msu | ナノ




※毛利家と餅の設定




テスト明けでも、名前は毛利家に居た。来ても大体が楽な家事で後は元就の相手だけなので、本当は休みたい体を引きずって来ていた。
まあ、一夜漬けをする自分が悪いのだが。賃金を貰う以上、例えなるい仕事でもしっかり勤めたい。

「元就さーん、今日は適当で申し訳ないんですけどシフォンケーキ焼きました」

「ありがとう、いただくよ。ついでに珈琲を…」

「はい、どうぞ。シフォンケーキが甘さがかなり控えめなので、ちょっとならお砂糖入れてもいいですよ」

「いや、ははは…名前の健康管理が徹底してるから助かるよ。じゃあ遠慮無く」

焼きたてのシフォンケーキと珈琲をお盆にのせて元就の部屋へ運んだ。元就は相変わらず何やら執筆しているようだが、やはり字と睨めっこは老体には疲れるらしく、甘い物を欲する元就にたまに菓子を所望されるので、こうやってお茶するのが日課になっている。
100均の素を使用、あとは適当な味付けをして卵白と泡立てるだけ。これでも立派なおやつだろう。泡立て器にかけている時頭がぼうっとして、泡を少々吹っ飛ばしたのはご愛嬌。

机の上の本の山を遠慮無くどかして、お盆をを置いた。机から本が落ちてるようだが知らない、元就が慌てて拾うのも知らない。
そうして二人でお茶を始める。

「美味しい。名前の作るものは何でも美味しいね」

「よっぽど変な調理してなければ、作りたては大体美味しいですよ」

「ううん、そうかもしれないけど、ほら、このスポンジさりげに檸檬の摩り下ろしが入ってる。クリームも甘さが無い代わりにほんのり檸檬とバニラの味がするし。ささっと作っちゃうのは凄いね」

「元就さんがそういう細かい所に気が付いてくれるから、作り甲斐があるんです」

毎度事細かに工夫したところを指摘してくれるものだから、名前としても大変嬉しい。自分用のブラック珈琲を啜りながら笑った。

しかし、不思議なものだ。
体はだるいのだが、変に目が覚めてしまい、頭だけが覚醒しきらない。それなのに、こうやって元就と一緒に過ごすだけでこの部屋の空気がおおらかになり、安心感やら何やらでとても落ち着くのだ。どんなにブラック珈琲を飲もうとも、徐々に眠気の波に襲われてくる。

「そうだ、前にもシフォンケーキを焼いてくれただろう?その時に気になって少し調べてみたんだ。なんでこんなにふわふわになるか。サラダ油だろう?これって、考案者がずっと隠し続けていた隠し種で…」

珈琲にミルクと砂糖を入れながら、元就が何時もの語りを始めた。嬉々として語るのは見ていて微笑ましいが、何時もはその話のくどさに飽きて流している。
だが今日は、元就の声が子守唄に聞こえる。安定の冗長さが今は一定のリズムを刻んでいるように感じた。
虚ろ虚ろしながら元就を見ると、用意していたのか資料を取り出してとても楽しそうに語っている。

嗚呼、白髪生やして、髭蓄えて、それでもこういうことには生き生きして…可愛いおじさんだなあ…。あっそんなにまた砂糖を、追加して…駄目じゃ、無い、ですか…

「…で、1947年、自らの高齢を理由に生地にサラダ油を加えるっていうレシピがゼネラルミルズ社に売却された。長い間謎とされてきた絹のような食感が解明されたんだ。ああ…私も隠居した時に息子達に教え書きを渡したな。上手く伝わってるといいが。名前も読んでみる?…あれ、名前?」

元就が漸く此方の世界に帰って来た時には、既に名前は机に肘をついて頭を支えながら、夢の世界へと旅立っていた。入れ違いである。

「やれやれ、また話が長くなっちゃったね。名前には子守唄に聞こえる筈だ」

小さく寝息を立てる名前の目の下には隈ができている。テストの事は聞いていたが、また一夜漬けかと元就は困った顔をして笑った。

「疲れていても来てくれる姿勢は立派だけど、体の事を考えてくれないと…。心配しちゃうじゃないか」

名前の体を支えて横にしてやり、座布団を折って頭の下に入れてやった。自分も隣に横になって、名前をの頭を撫でる。すると、名前は気持ち良さそうに擦り寄ってきたので、元就としては愛らしくて仕方が無い。そのまま腕の中におさめようとしたのだが…

「元就さん、砂糖入れすぎ。」

ピシャリとした寝言と共に腕を払い除けられた。
名前は直ぐにまた気持ち良さそうに寝息を立て始めた。抱き締める体制までしていたが、その体位のまま固まる。

流石…名前。体調管理は完璧だね。
夢の中までも。

直ぐに肩を落として隅に丸まる元就であった。
本人はこんな日々が嫌いでは無いようだが。

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リクエストありがとうございました。

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