戦国msu | ナノ




※「隆景に気付かれる」とちょっとだけ繋がってます。








戦の真っ最中。
毛利軍の先陣に相変わらず名前は居た。今回の戦は小競り合いに過ぎないものだが、元就が手を抜かず指揮し小早川・吉川もその力を奮っていた。此度はその内の小早川軍に属し、吉川が正面で攻める間に、手薄な側面から小早川が攻めていた。不意を付くにせよ、迅速に片付けなければならない。早く、早く。名前は焦燥に駆られながらただ目の前に来た敵を叩いていた。

吉川と合流すべく走り抜け様に切りあって居た時、
名前が飛びかかって切った相手の背後から、忍んでいたもう一人の兵が鋭く槍を突き出してきたのだ。焦りと突然の事で反応が遅れる。嗚呼また自分の不注意でやられる、せめて被害を最小限にしようと咄嗟に身構えた時だった。
腹あたりに刺さる筈の槍は、名前の後方から突然現れた刀に接触し、軌道を変えられ名前の真横を流れていった。一瞬だった。
しかしほうけてはいられない。名前は瞬時に流れた槍の柄を切断し、兵を切り捨てた。
先程の両刃剣には見覚えがある、隆景だ。戦場で謝辞に時間を割く訳にいかないので振り向いて一礼したのだが、名前は止まる。
勿論相手は隆景だったのだが、隆景が刀を握る側の脇に先程の槍の先が挟まれており、腋窩下あたりから血が滴り落ちて着物を濡らしていた。名前は血の気が引いた。隆景が怪我を負ったのだ。隆景も少し眉を寄せているが、取り乱さずに挟んだ槍を放かり捨てた。その際も血が舞う。

「隆景さん!!!」

叫んで、負傷した隆景を潰そうと飛びかかってきた兵を次々に力任せに薙ぐ。ーよくも。頭に血が上った名前は多くの敵兵が固まる所へ突っ込んでいこうとした。

「名前!やめなさい!頭を冷やして。私は大丈夫です。貴女は私の背をお願いします」

「ぶっ?!」

隆景は刀とは反対の手に持っている書物の一枚を、名前の顔面に飛ばして制した。毎度思うのだがあの本は一体どんな仕組みなんだろう。書物も、元就の溜まった著作を飛ばしている気がしてならない…。そう考えていると沸いた頭は冷めていって、我に返ることができた。言われた通り隆景の背に回る。その姿に満足した隆景は、名前の背にそっと一瞬もたれかかる。

「頼みましたよ」

そう言うと直ぐに離れ、戦闘態勢に入った。私を安心させる為だろうが、気にしてしまう。でも今はそんな事は言っていられない。名前は隆景が心配でならないが、必ず守ると意を決して刀を握り直した。


程なくして相手は降伏し、戦は終わりを告げた。









居城に戻ってきた一同だが、名前は道中隆景の側についた。隆景は傷口に布を当てるだけで済ませており、無理矢理付き添って隆景の部屋で治療することになった。金瘡医は呼んだので時機にくるだろうが、名前の気が済まなかった。部屋に着くと隆景を座らせ、名前は向かいに座り自分の治療用の酒やら薬やらを取り出す。

「そんなに気にしなくても擦り傷ですよ。流しきれなかった私の落度です」

「いえ、私がまた突っ走ったから…ああもう!私を責めまくりたいですけど今は応急処置が先です。脱いで下さい」

「今日の名前は大胆でよろしい」

「隆景さん!」

冗談で言ったのだが、名前を見ると目が潤んでいる。泣きそうだ。自分でしたことなのだから、そんなに気負わずともよいのにと思うのだが、反面嬉しくもあった。名前にとって自分は心配に値する人物の様だ。
隆景は観念して、帯を緩め着物に手をかけた。傷に張り付く部分は名前も手を貸した。桶に汲んであった水に布を浸し、絞って傷口に当てようと向き合った。改めて上半身が露になった隆景を見るのだが、隆景は何時も幾重も重ね着をしている為、その肌を晒すことは少なく、ふと見入ってしまった。顔立ちは整い、指は細く長い事は知っている。故にもっと体つきも細いと想像していたのが、胸筋も上腕も、その体にはしっかりと筋が通っており細過ぎることは全くない。寧ろ男性らしい体つきだった。隆景は男性、異性なのだと嫌でも意識してしまった。肌の白さから余計に筋は引き立っているが、その白い肌に赤黒い傷口もまた目立ち、傷の周りも血で汚れていた。しかし血は出ていたが思っていたより深くは無い様だ。取り敢えず安堵し、雑念を振り払い、傷口に布を当てる。

「滲みますよ」

「ええ」

頷き、傷口に触れても隆景は全く痛そうな素振りを見せない。慎重に血を拭き取り清潔にしたら、消毒用の酒をあけ違う布を浸した。その布も傷口にあてがう。

「そう言えば…今と逆のことがありましたね。名前が怪我をして、私が介抱しました」

名前は肩をはねさせる。その時のことは勿論覚えており、寧ろ名前の中では忘れられない記憶として根付いていた。

「…忘れたくても忘れられません。とっても恥ずかしかったんですから」

「今でこそいい物を見たと笑って言えるのですが、自分が同じ立場になると…少し照れるものですね」

初めの言葉にこそかっと頬が熱くなったのだが、今の隆景を見てみると、脱いだ時から目線は床の一点を見つめて名前の顔を見ようとしない。普段重ね着している分、どうやら隆景も少しは恥ずかしいようだ。これは珍しい。目に焼き付けておかねば。

「これはいいものが見れますね、隆景さんが照れてる。それに隆景さんのお身体…成る程隆景さんはこの前こんな気持ちだったんですね」

「名前、勘弁してください」

漸く隆景は照れて困った笑いをしながら名前の方を向いた。
…この胸が擽ったい感覚はなんだろうか、可愛さからだろうか。
だが今回は自分の不手際で隆景に怪我を負わせてしまったのだからと思い直すと、申し訳なくて声高には言えなかった。
自分の手を清めてから軟膏を手に取る。

「傷口触りますね」

「は…い。」

傷口を指でなぞる。本当は手の平全体で塗りたいのだが、まだできたばかりの傷だ。隆景はこそばゆそうに小さく震えて耐えているが、丁寧に塗る為に我慢して貰うしかない。隆景の気を紛らわせる為に話しかける。

「隆景さん、改めてお礼を言わせて下さい。ありがとうございました」

「い、いえ…ですから、お気に…なさらず…」

やはり擽ったいようだ。声も少し震えている。ちょっと面白いが可哀想になってきた。漸く塗り終わり、上から貼り薬を貼って、漸く処置が終わる。隆景は解放されてすぐ息を深く吐いた。痛みより擽りに弱いのは意外である。ともあれこれで自分の気が済んだので、道具を全て片付ける。

「…でも、今日は驚きました。隆景さんなら動く前に手を回していそうなので。隆景さん自らすぐに動くなんて意外です」

名前はふと気付いたことを尋ねる。そう、名前こそ真っ向に敵へ斬りかかって行くのだが、隆景は相手を観察し考えを練ってから確実に排除するのだ。靄がかった気持ちはこの蟠りのせいだったかと納得する。隆景も顎に指を添え少し返答を考え、言った。

「意外…ですか。そうですね、自分でも不思議です。あの時まるで何かに突き動かされたように、頭より先に身体が動いてしまいました。貴女が再び負傷する、そう考えると恐ろしくてならない」

何も飾りもない率直な言葉に、名前はまるで気持ちを伝えられているように思えてしまい、目を泳がせて身じろいだ。だが、そう言うことならば名前も黙ってはいられない。

「もし私を庇って隆景さんが命の危険に晒されたら、私だって今日みたいに取り乱しますよ?う、嬉しいですけど、隆景さんの得意な策略で二人とも生きるようにして下さい」

身を乗り出して反論するが、隆景は面白がるようににっこりと笑って言った。

「名前は無鉄砲に何も考えず飛び出して行きますが、貴女こそ私を庇わずに瞬時に二人が生き抜く事を考えられますか?」

少し考え、だが名前は唸って顔を赤くしぷりぷりと怒り始めた。隆景の言ったことが全て的確で言い返す言葉が無かったからだ。その様子が童のように愛らしくて、隆景は吹き出す。

「冗談ですよ。あまり喜ばしい事ではありませんが…自らを犠牲にしてまで、守りたいと思うこともあるのですね。お互いに」

そう言うと、名前は急に黙り込んだ。どうしたのかと顔を覗き込もうと思えば隆景の怪我をしていない側の肩に頭をつけて、おずおずと隆景の胸板に寄り添った。

「それでもお互いに生きるのが一番ですよ…」

隆景の温かさ、心音を確認するように名前は身を寄せた。隆景は少し面食らったが、目を伏せ黙ってそれを受け入れ、左手で名前の背を抱いた。
やれやれ、今日は完敗です。


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辞典より・純愛の定義の一つ=
「その人のためなら自分の命を犠牲にしてもかまわないというような愛」

○アンケートお題
純愛+脱いだら凄い隆景さん

リクエストを合併させていただきました。
ありがとうございました。

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おまけ

薬塗られてる時の隆景

ぬりぬり

「…っ!」

(我慢、我慢…我慢だ、我慢だ…!これは…こそばゆい!)

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