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初めてのレポート課題に初めての図書館、司書さんとの出会い、バイト先の決定。濃い1日は早く過ぎるもので、次の日はすぐにやって来る。
名前は今日も授業に取り組み、漸く慣れてきた大学生活だが目まぐるしく過ごしていた。それなりに楽しく過ごせているのはいいのだが、今日は授業後も気を引き締めなければいけない。今日はアルバイトの仕事内容の確認を図書館の小早川さんと約束していた。昨日出会ったばかりですぐに、圧力で勧誘するという中々の第一印象を持つ年齢不詳の司書である。
因みに小早川先生と呼ばないのは、名前の中で司書の位置づけが曖昧だからである。大学に居るのだから呼んでもいいかもしれないが、教授というわけではなさそうなので、さん付けで呼ばせてもらっている。
授業が終わり一息ついたばかりだが、初めて働くということで再び軽く気を引き締め、名前は図書館に向かった。

図書館に着くと、昨日課題をやりに来た時間より早い為かポツポツと学生が居た。隅の読書スペースが埋まっているのを意外に見ていると、横から声がかかった。

「来ましたね、名字さん」

「小早川さん、こんにちは」

入り口の真横のカウンターに隆景は座っていた。白のカッターシャツにを着て背筋を伸ばして本を読む姿に、この人本当に司書だったんだな…若い、真っ先にそう思ってしまったが胸の内に仕舞う。

「昨日はありがとうございました」

「いえ、気にしないで下さい。貴女が此処に来てくれたのですから、私こそ例を言わねばなりません」

どうやらバイトが居なくなり本当に困っていたようだ、都合が良い自分か来て余程嬉しいらしい。とっても笑顔だ。
そのままカウンターの後ろにある小さな司書室へと案内された。が、目を丸くする。中には机と椅子が二つ、更に部屋全体を覆うように本棚、山積みになった本、本、本…。これは流石に危ない。小早川さんが散らかしたのだろうか。それともこれは全部山積みの仕事ということだろうか?本達に目を奪われながら名前は椅子に座る。向かいの椅子に隆景は座った。

「改めまして、図書館での勤め、よろしくお願いします。今日は仕事内容をざっと説明するだけなので気を楽にして下さいね」

「はい、お願いします!」

「ふふ、気合が大変よろしい」

「それで、お仕事内容って?」

張り切って元気に言って、内容を聞く。こんなに山になった本を見ると、どうにも仕事が沢山ある気がしてならない。

「基本的には、カウンターに座って貸出・返却のバーコードを通すだけです。後は返却棚にある本を所定の位置にもどすことくらいですかね。ああ、あと館内の掃除。それくらいでしょうか」

隆景は思い出す様に顎に手を当てる仕草をするが、名前は拍子抜けしてしまった。もっと難しいものを想像していたのだが、バイトとはそんなものだろうか。

「たったそれだけでいいんですか…?」

拍子抜けしすぎてほうけて聞き直してしまった。その反応を待っていましたとばかりに隆景は笑いを零し、手で隠す。

「まあこんなものですよ。貴女はよいバイト先に巡り合ったということです。運命ですよ」

だから小早川さんが言う運命とは貴方自身が切り開いて行かれたようなもので…。いや、まあ偶然図書館に残ってしまったが故なので、運命で片付けてもいいかもしれない。入ってしまったのだからどうでも良くなった。

「それと、人が来ない時や居ても仕事が無い時は、勉強するのも本を読むのも大丈夫です。携帯はやめて下さいね。お店番みたいに考えてくれていいんですよ。とうです、いいところに入ったでしょう?」

それはそうなのだが、やはり腑に落ちない。絶対それ以外にもやることがあるはずなのだ。

「私が昨日の様に外す時カウンターに居てくれると本当に助かるんです。私が居たとしても、何かと仕事が溜まったいるので番をしてくれると嬉しいのですが」

兎に角カウンターに座っていて欲しいと隆景は言うのだが、名前は先程から気になっていることを聞いた。

「この部屋の山積みの本は何ですか?棚に並べるものですか?整理とか、新刊の登録とか廃棄とかを想像していたのですが」

名前はこの本の山は新刊や廃棄などの本が溜まっているんだと解釈した。そうでなければこんな小さな司書室の中に押し込めておく必要など無いからだ。名前は事前に図書館での仕事について調べていたのでこの事が思い浮かんだ。他にもどんな本を取り入れるか、入れ替えるか話し合って発注したり、本の登録や記録などの作業があることも頭に入れて来たのに、何故無いのか疑問に持つのも仕方ない。
この問いに、隆景は感心した。事前に知識を入れてきたことと、この司書室の状態から推測したことをはっきり言ってのけたからだ。最近の学生にはあまりいない、面白い子だ。隆景は答える。

「良い読みですね。しかし残念、これは私の私物の本達です」

「へぇー…へっ!?私、物?!」

一度聞き流したが、よく考えてみればこんな量の私物あるわけがない。名前は一度隆景の顔を見て、本を見渡し、そして高速で隆景を見直した。盛大な二度見である。名前が立てば頭くらいまで積み上げてある山もあるのに、これらが私物とは如何に。隆景を見てみると、本を改めて目で流し見、表情こそあまり変わらないがうっとりとしているのがわかった。名前は固まる。

「私は読書が好きでしてね、側に無いと落ち着かないんです。司書室は好きに使うように言われたのでこうなってしまったのですが…実に良い」

そう言ってほう、と感嘆の溜息を吐いた。名前は思う、これはあかんやつだ、と。つい椅子を引いてしまった。
そんな心の声と行動が届いたのか、隆景ははたと我に帰り咳払いをして正した。

「…失礼しました。しかし貴方の考えはよかったです。その証拠に、ほら。此処に積んであるものは新刊やら廃棄のものですよ」

隆景が指した本の山々の間に、もうひとつ机が埋れているのが見て取れる。其処には数冊の新しい本や古い本、本のリストらしき資料が重ねて置いてあった。隆景の私物の本当は比べものにならないが、少なくは無い。

「やっぱり。じゃあ、これもお仕事ですよね。私に出来ないことは無いと思いますけど」

求めていた仕事を見つけられたのに、名前の申し出に隆景は首を横に振った。

「貴女は初めてのバイトなのでしょう?まずは、初めに言った仕事を覚えて経験を積んで下さい。それにこれは今までのバイトの子にはやらせたことが無いのです」

「え、何故ですか」

「町などの図書館と違い論文や専門的な資料も取扱いますからね、制約があったりと中々厄介なのですよ」

小規模な大学だからと言った方が良いのだろうか、細かい制約や資料に縛られているらしい。確かにそんなに大切な物なら先生が扱って当たり前かもしれない。字を愛する小早川さんなら確実にやってのけるだろう。
しかし、出来ない事では無いではないか。きっと今すぐやればミスを連発するのはわかる。小早川先生の言うことはもっともだった。名前は思い立つ、考えるより慣れなければと。

「…大体の仕事内容は理解しました。やはりやらせて下さい頑張ります」

「ありがとうございます。どうぞ、これからよろしくお願いします」

隆景は
手を差し出してきたので、名前も手を出し握手を交わした。これで晴れてバイトとなり隆景はとても嬉しそうだが、名前はこれで終わるつもりはなかった。照れもありすぐ手を話すと名前は席を立つ。

「小早川さん、早速今日から働いていいですか?慣れなきゃ始まりませんもん」

そう提案すると、隆景は虚を突かれた顔をしたが、すぐに口角が上がった。

「名字さんがいいなら是非。今日は側について教えましょう」

そのうち小早川さんがやっている仕事も勝手に覚えて手伝ってやると目標が出来た名前は、燃える気持ちを胸にカウンターに座り図書管理用PCに向き合ったのだった。
隆景も前向きに仕事に励もうとする名前に、保護者が抱く様なあたたかい気持ちになっていた。今まで進んで仕事を求めてくるバイト学生は居なかった。意地でしょうか。面白くて可愛い学生が入ったものです、これからどんな日々になるやら。座った名前の後ろに立ち、屈んでPCの説明を始めた。

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