微妙に前ページの続き
「こんにちは」
「む」
「お久しぶりです官兵衛さん」
「久しいな。…少し歳をとられたな。しかし若々しい。半兵衛程ではないが」
「貴方は全く変わりませんね、官兵衛さん。お化けかしら。ふふ」
「ふ…幾つ歳を重ねようとも変わらぬ所は変わらぬか。其処へ。茶でも出そう」
「ありがとうございます。お隣お邪魔しますね」
「さて、また何故来られた」
「処理しておきたい用件がありましてね。ついでにお茶でもと」
「私の庵は卿にとって茶屋か」
「嫌ですよ、冗談です。こんなにお日柄がいいんですもの。官兵衛さんに会いに。昔みたいに昼寝して読書でもと」
「それをしていたのは半兵衛に隆景殿だったと記憶しているが」
「あら、覚えていらっしゃいましたか。あの方達はあの時から『ご隠居』様でしたね」
「実際当時の歳は…いや、やめておこう」
「同感です。…桜が美しいですねえ」
「そうだな。こんな日は昼寝や読書の日和なのだろうか」
「ふふっ、そうですね、『ごいんきょ』」
「卿まで私をそう呼ぶか。私にその呼び名は」
「そう言いつつ、伺った時に船を漕いでいたのを知っておりますよ」
「…気付かれていたか」
「そんな官兵衛さんにはこれがあれば完璧です」
「これは…日記か。この厚さと序文の冗長さから聞かずとも誰のものか理解できる」
「ご明察。隆景さんのものですよ。これを読めば嫌でも殊更眠くなります。官兵衛さんも立派なご隠居様ですよ」
「全く、余計な気遣いなことだ」
「お顔が緩んでおりますよ」
「この日和のせいだろう」
「…ふう。あの官兵衛さんが、うたた寝しているのを見られてなんだかとても胸がほっこりしました。満足です」
「もう行かれるか」
「十分です。あの日の続きができたのですから。どうかお元気で、ごいんきょ様」
一塵の風が吹いたかと思うと、官兵衛の隣には誰も居らず、空の湯呑みとひとひらの桜の花弁があるのみだった。
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処理しておきたい用件=半兵衛と隆景に変わり隠居後の官兵衛を見守りに来ること
見守るまでも、なかったですね。
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