口を開いたのは久しぶりかもしれないという記憶を頭の隅に追いやり ようやく構ってくれるらしい理事長の椅子に腰掛ける兄の足元付近まで近付いて机を背に床へ座りこんだ。飴を口の中で転がすと着色料を含んだ甘さが口の中に広がる。見上げると怪訝そうにこちらを見る兄上と目が合った。何故床に と兄上がおっしゃるので座るところが無かったので床に座りました 机に腰掛けるのはいけないと思いましたから と口に出して応える代わりに飴を噛み砕くと兄上の溜息が地面を這った。どうやら伝わらなかったらしい 残念です。噛み砕いた為に口の中には既に飴玉はなくなってしまった。口寂しさを紛らわす為に兄上に質問してみましょう。声をかければ呆れを滲ませた瞳がボクを捕らえる。

「面白いことを言う人間がいました」

兄上にもらった鍵で日本という国を観光した際に色んな人間を見た。幸せそうに買い物をしている家族やあくせく機械のように働く人間、何かを必死に訴え伝えようとする人間、実に沢山の種類を発見することが出来たのだがその中である人間が言っていた言葉が頭を回ってなかなかにすっきりしない。兄上ならこれを除いてくれるかもしれないと期待する。

「センソウ…反対運動 というお話会で男が叫んでいました。それがぐるぐるしてとても嫌です。兄上教えてください」

待て と言葉を挟まれる。

「……アマイモン、順序というものを踏まえて話せ」

兄上は疲れていらっしゃるのかイライラとしているようだ。
はい解りました と答えたものの何がおかしかったのか解らなかったので取り敢えず本題をと安直に話してみる。兄上教えてください。

「ある人間が言っていました。『今 此処に 生きている。なんて自分は幸せなんだろう!』と。これは一体どういう意味で何を求めている叫びなんでしょうか」

ボクには解りません そう言うボクに 兄上はなんだそんなこと とにやり蔑むように顔を歪めた。アマイモンよく聞け と兄上の声が降って来る。

「その人間は病気だ。そんな戯事 理解なんぞ出来ないに決まっている」

そう言って兄上は黙らせるために甘い飴をボクへ放り投げた。




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -