「キミは嫉妬しているんじゃないですか?」

眉間に銃を突き付けられているなんてまるで解していないかのように依然飄々と話す悪魔。「わー銃が怖いですー」なんて感情をのせない言葉を吐かれても馬鹿にされている気しかしない。フェレス卿の弟であっても 目の前にいるのは欲望に忠実な害ある悪魔なのだと トリガーにのせる力を増すが、何故だか投げつけられた疑問が指にひっかかる。

「どういう意味ですか」

「どうもこうも そのままの意味です。キミは兄に 奥村燐に対して意識的 または無意識的に嫉妬心を抱いているのではないですか、とボクは尋ねました。答えてくれたなら 痛いのはまるで全くちっとも雀の涙程度にも好みませんが その銃弾を一発位は受けてあげますよ」

「随分と…上からものを言うんですね」

「王様ですから。それに加え キミに殺されてあげられる自信は程々にも更々にもないですし。どうです 奥村雪男、ボクに対して憤りを感じていますか。弱貧扱いされて悔しいですか。ボクを撃ち抜いてしまいたいでしょう。キミが一答するだけで 少なくともひとつの欲望は満たされます。過ぎたフラストレーションは兎をも殺してしまうんですよ」

「…目的がわからない」

「目的、ですか。特には何もないと答えても 去就に迷うキミは信じてはくれないのでしょう。人を見たら鬼と思え、明日は雨他人は泥棒 と俚諺にあるくらいですから人間とは随分と疑心暗鬼な側面を文字や発声を媒介として顕し 強調する生き物なのですね。いと面倒かな、です。因って ボクが何を言っても君の求むる答えにはならない上に 妙な勘繰りを入れられるのも癪なのでその問いには答えないことにします」

ボクはただ確認したいだけなんですよ と添えた悪魔はそのビー玉の瞳に僕を映す。その言葉が真か偽なのかは内に隠され見えはしなかった。
僕が兄さんにコンプレックスを持っているなんて そんなことあるはずがない。それに至る理由も 原因もなにもかもが存在しないからだ。僕よりも不幸なのは兄さんで 僕よりも望まれないのも兄さん。だから何も背負わなかった僕がそんな感情を抱くというのはあまりにも贅沢で我が儘だろう。
僕が答えないまま 黙していると その悪魔は再び言葉を紡ぎ始める。

「キミはとても優秀な祓魔師だと 兄上から聞きました。敵を褒めるのは少々躊躇いますが 兄上のおっしゃることなので本質的理解をしているわけではありませんがボクも賛同しましょう」

「悪魔に褒められても嬉しくない」

「全くです。キミは天才だと称されているそうですが ボクは違うのではと思っています。キミが最年少にして祓魔師になることが出来たのは 与えられた環境を抜きにしたとしても キミ自身のたゆまぬ努力の成果ではないかと思うのです」

「……」

「キミはどうしてそんなにも頑張ることが出来たんですか。何かしら理由があるのでしょう?」

「…僕は兄さんを守りたいだけだ」

そう 悪魔が望んだ通りに答えてもしまった。僕は何をやっているんだろうか 早く撃ってしまわないと。こちらの心の内など塵ほどにも興味ないとばかりに自分の思考に耽っている悪魔は待ち望んだ返答をゆっくり飲み込み ふむふむ成る程 という言葉と共に消化した。

「キミはとっても立派ですね、カンドウしました。でもボクは思うのです。キミは本当に」

奥村燐を守れていますか その言葉に心臓を鷲掴みにされたような焦躁が走った。僕は兄さんを守れているだろうか。守っていると思い込んで 満足していただけではないのか。ぐるぐると頭の中が溶け出してしまう錯覚、悪魔がにやりと笑った気がした。

「やはりボクの結論は正しかったようですね。キミは幼い頃から自分が兄を守るなんて無理であると自ずと理解していたんじゃないですか。そしてキミは 自分には出来ないことをやってのける兄に対して無意識の内に嫉妬していた」

悪魔の言葉が呪詛のように僕の思考を崩していく。トリガーにかけた力など すでにない。そういえば ああ そうかもしれない。僕は兄さんが羨ましくて 兄さんみたいになりたかったけど それは絶対に叶わないってわかってたんだ。それなら

「僕が 祓魔師になるために頑張ってきたのは」

兄さんのためなんかじゃなくて そう呟いた瞬間、何かが弾けてしまったのです。






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