「教えてください。鴉は幸せだったんでしょうか」

悪魔に会った。


公園のベンチ、アマイモンの隣に腰掛けて話を聞いている俺をみたらあの…アーサー(だったっけ?)って奴に裏切り者だと思われるかもしれない それは面倒くせぇな などと思ったがまだ話は終わらないらしい。

「雑談が多過ぎましたね。本題に戻します」

なんてことだ。ロンドン塔を知ってますか の問答をした後 そういえば と他愛もない会話に発展してしまい この前あれを食べて美味しかったとかこれをして楽しかったとか兄上がこう言ってくれたとか あまりにも人間的過ぎる話題で驚いたが 結構楽しかった。

では とアマイモンが一言。

「ロンドン塔では何匹もの鴉が飼育されていました。鴉は塔と英国の守護神とされていたからです。とある占い師は"カラスがいないと ロンドン塔もなくなり 英国そのものも滅びてしまうことになる"とまで言ったそうです」

日本じゃ害鳥として嫌われてんのにな。

「でも ロンドン塔の鴉は野鳥だったんです。奥村燐、どうして鴉が塔から逃げなかったと思いますか?」

そんなの、

「籠の中にでも閉じ込めてたんじゃねぇの」

普通に考えて。そう答えると奴はふるふると頭を左右に振った。どうやら違うらしい。

「じゃあどうやって…焦らしてねぇで教えろよ」

はい と無感情に言葉が戻ってくる。

「もっと簡単な方法です」

奴はぴょん とベンチから跳ねるように離れて飴をがりがりかみ砕きながら俺を見る。

「羽を 切り落としちゃうんです」

まわりの音が消えた気がした。なんで という言葉は掻き消されてしまう。

「鴉は幸せだったのか。キミはどう思いますか?」

二度目の質問に 何故か慌てる。

「んなの 不幸せだろ」

「何故です?」

「何故って…」

尋ねられて 吃る。可哀相だとかそういう理由は少し違うんじゃないかと思った。

「じゃあ お前はどう思うんだよ」

一応考えたんだろ。俺だけが答えるのは理不尽だ。

「ボクは 幸せだったんじゃないかと思います」

「なんで?」

「だって鴉達は知らないんですよ 己が本来飛べる生き物だということを。なら飛べなくても良いんじゃないかと思いました。野生の鴉のように餌を探さずとも飢えることはないですし。でもボクは鴉じゃないので本当の事はわかりません」

そりゃそうだ。

「なら俺にもわかるわけねぇじゃねぇか」

そうですね と意外と普通に返事が返ってきた。こくん とアマイモンが首を傾げる。

「でも 奥村燐にならわかると思ったんです。鴉の気持ち」

「なんでだよ」

ざわ と背筋に嫌なものを感じる。言葉の続きを聞いてはいけない気がした。きっと俺にとって 決していいものじゃないんだろう。無機質な色が俺を映している。

「だってよく似てるじゃないですか その鴉たちと」

言葉の続きを聞くのが怖くなって 勢いよくベンチから立ち上がり逃げるように走り出した。



ひとり残された悪魔は小さくなっていく弟の後ろ姿を眺めながら呟く。

「奥村燐なら幸せだと答えると そう思っていました。だって気付かないほうが幸せだったでしょう。自分が魔神の落胤だったなんて」


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