明日からも通わなきゃなの?なにそれ嫌すぎる。



連れて来られたのは長い廊下が続く建物の一室。どうやら昨日と同じ部屋らしいが、俺にしたらそんなことどうでもいい、早く帰りたい。扉を開いた先では既に授業らしきものが始まっており、急に入ってきた(正しくは奥村君に連れて来られた、だから。入りたくて入ったんじゃないよ)俺に学生の視線が突き刺さった。昨日の失態もあってか、普通より鋭いそれのせいで、体に穴が空くかと思ったぞ。マジで。今から初めてましてよろしくお願いします的な自己紹介でもさせられるのかと思ったが、(授業中だからなのか知らないけど)そんなのは一切無しで 後ろの方の席でフードを被った男子の隣に座らされた。ちょっと待って奥村君、なんでわざわざ人の隣に座らせるの?知らない人怖いんだけど、なんなの君ドS?やっぱり俺の敵だな。中二ネーム(理事長)だけで手一杯なのになんてこった。そんなことを思いながらもチキンの性のせいで文句は言えないまま、なんと奥村君は出ていってしまった。え、ちょっと待って何それ放置?酷すぎる、泣きそう。ばたん と無情にも扉は閉まり、俺はよくわからない空間に取り残された。体力は既に零に近い。孤立無援のまま、今に至る。




「郷崎君、昨日はどないしはったんです?理事長さんに連れて来られてたやないですかー」

「そうだそうだ、何があったんだ?」

助けてママン、パパン。俺が大ピンチに陥っています。
よく解らない授業が終わって、よし帰れると席を立とうとしたら 数人の男子に囲まれてしまった。これは…これは俗にいういじめじゃないだろうか…!助けを求めて隣を見るが、すでにフード君はいない。いつの間にいなくなったんだ、忍者かよ。ってそんなふざけてる暇はないんだった、どうにかして逃げないと。俺を囲んでいるのは黒髪くせっ毛の奥村燐君(奥村雪男君のお兄さんらしい。似てねぇ、とは言えなかった)に鶏冠頭でいかにも不良な勝呂竜士君、ピンク頭で胡散臭い志摩廉造君、みんなより少し離れた所にいる坊主頭で優しそうな三輪子猫丸君。…みんな頭に何かしら特徴あるけど、そういうブームなの?俺はボサボサで悪かったな、ぐすん。頼むから三輪君以外は即刻帰ってくれないだろうか、怖いから。今にも全速力で走って逃げ出したかったが、何となく奥村兄の方が足が速い気がしたから諦めた。いかにもって感じはやめて欲しい。

「そない囲んだら郷崎さん怖がってしまいますよ?」

黙り込んだ俺をみて 気の毒に思ったのか、三輪君がバラけるよう促してくれた。いい子だ…!この子すごくいい子、俺のおばあちゃん的存在になって欲しい。
彼等は三輪君の一言で少し距離を取ってくれた。なんだ、ちょっといい奴らっぽい……まあそんなこと俺には関係ないがな、取り敢えず帰りたい。
まだ何かしら質問があったらしい(というか俺が答えないから同じことを聞いてる)彼等の声を無視して、がたんと立ち上がり 扉へと向かう。よし頑張れ俺、勇気を出して逃げろ!

「お、おい、郷崎。帰るのか?」

驚いた様子の奥村兄が吃りながら問い掛ける。ああ勿論帰るとも、ここに用はないからな。家に帰って、ママンに電話するんだ。既にホームシック気味です。彼の問い掛けにも答えず、そそくさ帰ろうとも思ったが、どうやら彼等は(確証はないし信用なんてしてないが)not不良っぽいし、ここでまで無視を決め込むのは人間としてどうなのかと思ったりした。仕方ない。扉の前まで来たと同時に、頭だけ彼等へ向ける。

「俺、帰るね。さよなら。奥村燐君、勝呂竜士君、志摩廉造君、三輪子猫丸君」

そう挨拶して 部屋を後にする。俺格好良かったー!と叫んでしまいたいのを必死に堪えた代わりに、広い廊下に「うひょーい!」という、俺の声が小さく響いた。




(そういえば、他人の名前なんて久し振りに呼んだ気がする)




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