理事長以外にも敵がいたなんて思いもしなかった。不意打ちは狡いと思うよ。




「これだから嫌いなんだ」

こんな広い学園。また道に迷って 何故か廃屋みたいな建物の前にたどり着いてしまった。あ いや違う迷ってなんかいないです、休憩中なんです勘違いしないで…とか言っちゃってーうふっ。今わかったことは俺がいつもに増しておかしいということだけだ。俺、馬鹿かもしれない。なんとなくごろんと寝転がってみると青い空ではなく 灰色の軒が見える。今の心を表すのに丁度いい色に違いない。ふぅ と溜め込んでいた息を吐き出した。

昨日の記憶は 理事長の暴力によって俺のか細い意識がぶっ飛んでしまったのと 体液でろでろの強いショックのせいで ぼんやりとしている。学生らしき男女が何かしら騒いでいたけど 右から左にサヨウナラで頭の中を隈無く探したが全く覚えていない。毎度思うけどやっぱりリジスのせいだ。いますぐ海に沈めてやりたい、誰か俺の代わりにやってくれ。

人任せな思考に一旦蓋をして 自分が今此処に至るまでを思い返してみる。ああ、そうだ、放課後、俺が脳内で理事長殺害計画を画策させているなんて雀の涙程にも想像していないと思われる女子数人に話し掛けられたんだった。普通そういう場面では告白だとかなんだとか甘い想像をするだろう?甘いな、喉がからっからの状態でメープルがぶ飲みするのより甘い。てめぇはお茶と間違ってめんつゆ一気飲みしてな!…今のは理事長に向けての言葉だからみんなはやらなくていいからね。え、みんなが誰かわからない?そっかー、うん 大丈夫 俺もわからないよ。
彼女達が何を聞きたいのかなんてすでにわかってた。そんなの 昨日理事長に引きずらてた理由に決まってるじゃないか。それ以外で他人が俺に関わって来るようなことはおかしていない。勿論予測は的中、もう何度目かになるその質問に嫌気がさして逃げ出した。面倒臭いし 五月蝿かったから。
その後はもう自分でも呆れることしかないから話しません。…え、だめ?だって長い文章飽きたでしょ。俺は疲れ…わかったわかった、話します。今日の俺は一人芝居がブームなようですね。うひょーい!…うん、とりあえず落ち着こう。
逃げ出した俺は無性にあのピンク色したわんこに会いたくなって 何処かにいないかと探し回った。でも方向音痴が手伝って道に迷った…のではなく知らないところにたどり着いてしまったのだ。意地でも迷ったなんて情けないこと認めないからな、文句があるなら助けてください。

俺が最後の手段(メールでママンに助けを要請)を実行しようとしていると、廃屋の玄関が音を立てて開いた。

「…何してるんですか?」

出てきたのは今にも俺のことを踏んでしまいそうな奥村雪男君。初対面だ。とりあえず小声で挨拶をしてみたが、やはりキョトンとしている。状況の把握ができないが 一先ず邪魔になっていることは確かだろう。

「えっと…失礼しました」

起き上がって そそくさと逃げる。職員室を出ていくときの挨拶も付属してみた。
しかし「待って」という声と共に手首を捕まれてしまい 逃亡は失敗する。随分と積極的だな。照れちゃうだろ。…何言ってんだろ俺、気持ち悪っ。

「な、んですか」

「君は…確かメフィストさんが昨日連れてきた塾生でしたよね」

メフィスト?誰それ、知り合いにそんな中二くさい人いないですよ。…あれ、でも

「塾…?」

はい と奥村君が相槌をうつ。確かピエロが塾がどうたら言っていた気がする。それに昨日って言ったし…もしかして理事長の名前はメフィストっていうの?…うはっ中二くさ!大笑いしそうだ。くけけけけ。
俺が 理事長=メフィストということのみ理解したと同時に、奥村君に引っ張られる。

「もう塾も始まりますから、君もちゃんと出席してくださいね」

ごめん、意味わからない。俺塾とか入ってないです と講義しようとしたが、昨日リジスが持っていたのと同じ鍵を取り出した奥村君に驚いて言葉を失ってしまった。それに凄くデジャヴュです。状況把握は今だできないが ひとつだけわかったことがある。

(奥村君は 敵だ…!)



今日から俺は眼鏡の人を信じられなくなるだろう。がちゃん と錠の落ちる音がした。


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