「――ごめん。」
…ふられた。
まぁ、わかっていたことだけど。
私、普段根暗してるし。
うん、しょうがない…。
―今は感傷に浸ってる暇はないし。
今日は、文化祭。
私の所属する演劇部は毎年文化祭でステージに立つ。
今年の劇は文芸部との共同制作。
文芸部の書いたシナリオで演劇部が演じる。
私は今年、主役の女の子をやらせてもらえることになった。
だからこそ、失敗はできない。
感傷に浸ってる暇は、ないの。
今回の劇は、告白してふられるところから始まる。
今の私と同じ状態。だから、演じやすい。
開演時間、舞台裏。部長の声が低く響く。
「さぁ、行きましょう―!」
それを合図に開演のブザーが鳴り響く。
幕が上がってライトが私を照らす。
『・・・私、ずっと貴方のことが―』
・・・舞台は終盤へ。
『…私はもう逃げない!たとえどんなことがあっても自分の道を歩いてみせる!
だから・・・』
これは、私の気持ち。
もういいよ、ありがとう。って
『お互い、頑張って行きましょう?
笑顔でいるために。』
そう言いながら右手を差し出す。
それを相手役の男の子が握って舞台はおしまい。
舞台が終わったならもう一度幕があがる。
カーテンコール。
そうしたら、最前列で見てくれた彼に、にっこり笑おう―。
役者の紹介が始まる。
『…香西志乃役、兵藤由里!』
名前を呼ばれたならにっこり笑って一歩前へ。大きく手を振りお辞儀をする。
彼は驚いてこちらを見ていた。
クラスの人たちは演劇部のステージに見向きもしない、するはずがない。
私もそれが楽なのだけれど。
後夜祭で共に騒ぐ仲間もいないし、そんな気もなかった私は一人部室に来た。
何処よりも落ち着く私の居場所だから。
しかしそこにはすでに先客が。
私が来たのを見るとおもむろに拍手を始めた。
「すごかったよ。
いつもの君とは大違いだね。」
来ていたのは今日、私を振った彼。
彼の話には答えず質問を投げかける。
「ねぇ、本当の私ってどっちだと思う?」
彼は何が?と言う顔で私を見る。
「今日ステージの上にいた私と学校での私。」
彼は迷わず答えた。
「後者じゃないかな?」
「そう、正解。
あのときステージにいたのは香西志乃。
私じゃないわ。」
彼はわかっている。
だからこそ、遠慮はいらない。
教室にいる私じゃなくていい。
「確かに。香西志乃は健気な子だ。
あんな子ならモテるだろうね。」
でも、と彼は付け足す。
「僕は、今"此処"にいる兵藤由里が好きだよ。」
彼の発言に私は少し動揺する。
「ちょっ…貴方わかっているんでしょう?私が…」
「"役作りの為に好きでもない僕に告白した"ってこと?」
彼は私の言葉を遮って少しだけ、ほんの少しだけ寂しそうに言った。
「もちろん、わかったよ。
軽音部は部室この先だからいつもここの前は通ってるしね。
だから、"教室での君"を知る前に"演劇部にいる少し辛口な女の子"ばかり見ていた。
僕が好きだったのは"演劇部にいる兵藤由里"だからね。
正直今日は少し、傷ついたよ。」
その言葉を聞いて私は真っ赤になったのがわかった。
「………私、だって…好きでもない人に、告白するほど人生捨ててないわ。
今朝はさすがに、余裕なかったわよ。」
それを聞いた彼はにっこり笑って、私に手を差し出して言った。
「僕は"キミ"を否定したりしない。
なにがあってもね。」
私がその手をとったのは言うまでもないでしょう?