「ねえ。雨、なんですけど。」

高速道路を走る一台のオープンカー。

風を切って走るその姿はとても格好良い。

…しかし、それは晴天の時にだけ与えられる称号だ。

「んー。
ま、通り雨だろうし、平気でしょ。」

隣―運転席に座る彼、洋司は気にもとめず車を走らせる。

「や、そっちは水も滴るいい男でしょうけど…。」

こっちは困る。
(30分かけて)アイロンでまっすぐにした髪も、(ナチュラルだけど)ばっちりメイクも、(バーゲン品だけど)お気に入りのデート服も。

全部色々、落ちてしまう。
すっぴんはまだ良いけど、服ずぶ濡れもしょうがないけど!

「髪だけは、駄目。」

「は?」

思わず声に出してしまったようだ。
洋司が胡乱げにこちらを見る。

「―や、なんでもない、なんでもない。」

ばれてはいけない。
凄いくせっ毛でメデューサのようになってしまうことを―



結局、洋司の家に着くまでに雨はやまなかった。

「もう!ずぶ濡れじゃない!」

玄関先で水気を絞っていると洋司が車のトランクからバスタオルを持ってき
た。

「ほれ、シャワー浴びてこい。
風邪ひくぞ。」

誰のせいだ、とは思いつつお風呂場へ向かう。

一人暮らしにしてはキレイな脱衣所でぬれた服を洗濯機に放り込んで乾燥をかける。

「あ゛-----------。」

こういう時のシャワーってどうして気持ち良いのだろう。

全身を洗って脱衣所に出ると乾燥はあと15分はかかるようなのでタオルを巻いてわしわしと髪を拭く。

できるだけ水分を取っておかないと意味がない。

ドライヤーを使えば早いが、この家のは使い勝手が悪いので使いたくない

そうこうしている間に服が乾いたので着替える。

髪は―どうにか、なりそうだ。

リビングに戻ると洋司がソファでテレビを見ていた。

服は着替えたのだろうが髪が濡れている。

「あがったよ。洋司浴びてきたら?」

「ん。髪、ちゃんと乾かせよ。」

洋司が脱衣所に消えると鞄からブラシを取り出してしっかりとかす。

それが一心地つくとバフッっとソファに倒れ込む。

だんだん眠気が襲ってきた




「…………………」

"あ゛ー"などと奇声
をあげながらシャワーを浴びてリビングに戻ってくると文佳がソファに横になってすうすうと穏やかな寝息を立てていた。

…ものすごく、目に悪い。

とりあえずタオルケットを掛けてからすっと目を外すと目に違和感を感じた。

…これは、そう。
目薬ではどうしようもないほどの。

「っ!…コンタクト、外してこよう。」

一人暮らしをしているとどうも独り言が多くなる。

文佳が身じろぎする気配を背に洗面所に急ぐ。
…地味に痛い。


メガネに換えてリビングへ戻ると文佳がおきていた。が、

俺はまた言葉を失って立ちつくした。

「……………」

「…なに?どうしたの?」

「………髪、いつ巻いたの?」

初めて見たんですけど!
可愛いんですけど!!

すると文佳は困ったように笑って言った。

「地毛なの。
凄くぐるぐるになるから普段は死ぬ気でまっすぐにしてるんだけど…。」

…え?なんで?可愛いんだから

「いいじゃん。」

「え?」

思わず口に出してしまった。
ええい!言ってしまえ!

「似合ってる。
良いじゃん。可愛いよ。」

すると彼女は真っ赤になって俯いて小さく頷いた。

――――!可愛いな畜生!!
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