体育館中に響き渡った痛々しい音。

その中心では1人の少女が膝をついて顔を押さえている。

少女の友人が駆け寄って容体を尋ねる。

「大丈夫!?春美?」

春美、と呼ばれた少女はゆっくりと顔を上げる。

額が少し赤くなっているが大して問題なさそうだ

「・・・大丈夫、じゃない。
メガネ、壊れた。」

―事の起こりは数分前…

今日の1時間目はまさかの体育でバスケだった。

春美は運動神経は良くもなく悪くもなく。

いわゆる普通、と言うやつだ。

いつも通り友人の由衣と共にパス練習をしていた。

しかし場所が悪かった。
なぜか右隣のペアが喧嘩を始めたのだ。

外国のテレビなら放送禁止の電子音が鳴り響きそうな勢いだ。

…そして悲劇は起こった。

春美の向かい側にいた相手が何のきっかけか激怒し、持っていたボールを投げつけたのだ。

しかしそれは怒りのあまりか大きく反れ春美に当たったのだ。

…運良く見事な顔面激突は免れたものの生きていく上で欠かすことのできないメガネが壊れてしまった。

―微妙な沈黙を破り由衣につれられて保健室へ

異常なしと診断を受けると教室に戻り制服に着替えた。

が、そこからが問題だった。

「授業、どうしよう…。」

春美はとてつもないド近眼のためメガネなしでは生活できない。

とりあえず由衣に次の授業を尋ねる。

「ゆーちゃん、次の授業何ー?」

「えっと、数学ー!半沢せんせ。
2時間続きー。」

その言葉を聞いてニヤリとする。
なら自習でいいや。

キーンコーンカーンーコーン…

チャイムがなる。
ぼやけた視界に背の高い黒いスーツの男が入ってくる。

「きりーつ、礼ちゃくせーき」

挨拶が終わると先生が授業に入る前に教卓に歩み寄る。

「せんせー、今日自習で良い?
モノ見えねぇ。」

半沢春斗先生―長身で美形、女子生徒に人気。そんな彼にここまで砕けた物言いをするのは春美だけだ。

「メガネどうした?」

「大破。1校時に。」

大破、と効いて壊した女子生徒がうつむく。

「俺のメガネ貸すか?」

半沢先生は手元のメガネケースからメガネを取り出す。

「あー…全然だめ。
つかこれくらいの度数でメガネ作るな。」
メガネを返しながら言うと半沢先生が苦い顔をする。

「お前もうそんなに悪いのか。」

「まぁねー。で?どうする?
この時間抜けて良いなら近くのメガネ屋に行ってくるけど。」

先生はあー…とうなって悩んでいたがまぁ良いか。と呟いた。

「外出届け貰ってこい。
俺の授業のうちに帰ってこいよ。」

「ん。…あ、2万貸して。釣りは返す。」

先生はため息をついて財布を取り出し、2万円を渡す。

「ほれ、さっさと行ってこい。
さっさと。」

「うーっす」

春美が出て行ったのを確認すると半沢先生は授業を始めようと声をかける。

「さて、教科書80ページを開「先生!」…なんだ?」

「春斗先生と半沢さんってどーゆー関係?
まさか夫婦?イケナイ関係?」

春斗は盛大にため息をついた。

「あれは妹。8つ離れてるんだ。
お前らが思ってるようなスリリングな関係じゃありません。」

知っている由衣以外が驚きの声をあげる

「でもおもしろいね。
兄妹そろって同じ学校って。」

その言葉に春斗はまたため息をついた。

「良いもんか…兄妹(俺ら)だけじゃないぞ?
物理の春絵先生はうちの父の姉、3年の数学の春一先生は父のいとこ。
特進科3年理系クラスの委員長は俺らのいとこ。極めつけは校長、母方の祖父だ。
今年の異動で一家郎党集まっちゃってねぇ…」

全員唖然としている。

「…ま、一番つらいのは春美だな。理数系一族で唯一文系だし、中3の時に必死で一族のいない高校探したのにごっそりやってくるし。」

教師の子供ってのは大変なんだよ。と言う言葉だけが重く響いていた―。

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